一年前の冬、
借艇のシングルで僕は沈んだ。
川の冷たさが首筋を刺し、
息が水に溶けていく。
体は震え、心臓だけが熱を持って暴れていた。
怖くて、痛くて、
でも――世界は僕だけに静かだった。
沈むことでしか
自分の存在を確かめられない――
その孤独に、僕は美しさすら見出した。
橙色の浮き輪が
空を切って飛んできた。
ダブルに乗る同期の声が、冬の川を震わせた。
「こーすけ!!!」
その声に、胸の奥が張り裂けそうになった。
手を伸ばし、浮き輪を掴む瞬間、
凍てついた世界がふっと緩む。
水の痛みも孤独も、すべて僕を輝かせる舞台だった。
艇庫に戻ると、
ボロボロの壁、剥がれた天井、湿った床。
でも先輩が差し出してくれたカレーメシの湯気に、
心が溶けた。
一口食べるたびに、
冬の冷たさも孤独も痛みも
すべて僕のものになった。
そして――
僕は笑った。
僕は泣いた。
さらに、新しい船の名前を聞いて、
思わず笑った。
「颽(かい)」――南の風。
南山の風を戸田に吹かす船。
なんて誇らしく、なんて僕にふさわしいんだろう。
沈んだ僕と浮かんだ世界。
あの冬、僕は沈み、立ち上がり、笑い、泣いた。
颽はそれを覚えている。
僕も覚えている。
川の匂い、浮き輪の橙色、カレーメシの湯気、
全部が僕の証。
孤独も、痛みも、歓喜も、誇りも、
すべて僕の胸に生きている。
今日も、僕は颽とともに
世界の中心で風を感じる。
あの冬の記憶が胸に焼きつくたび、
熱くて、痛くて、
どうしようもなく涙が溢れる。
僕がここにいるから、世界は美しい。
僕が感じるから、世界は意味を持つ。