内村鑑三の言葉 1 「わが神」
悲しき時は貧する時にあらず、
国人に捨てらるる時にあらず、
孤独この世に存在する時にあらず、
無学をもって人に嗤わるる時にあらず。
悲しき時はわが心の眼に神が見えずなるときなり、
わが霊魂が欣慕する者の面が疑いの雲をもって
蔽わるる時なり。
そのときわが蔵は充つるもわれに歓喜なし、
わが名は万国の民の讃むるところとなるも
われに満足あるなし、
わが首の上に太陽は照るもわれは独り
暗夜に辿るがことき心地するなり。
われわが神を見失うてわれ死せると同然なる者となるなり。
われの愛する者、われの恋い慕う者、
われの生命より貴き者は、わが神なり。
明治34年(1901年)
岩波文庫『内村鑑三所感集』より