思い出す時代劇あれこれ | なのはな22のふたり言

なのはな22のふたり言

本・テレビ・映画の感想が多くなると思います。たまにフィギユアスケート。
ミステリーや時代劇、ビジネスドラマが好きです。

池波正太郎原作ものでは、うちは鬼平より藤田まこと版の「剣客商売」が好きだ。

藤田さんの秋山小兵衛は人生の達人というか、とても「風通しの良さ」を感じる演技で、気持ちが良かった。

夫はBSで再放送がある度何度も見ていて、私もお付き合いした。

 

時代劇は好きだが、主人公が庶民を装って最後に「実は将軍様である」とか「実は北町奉行である」とか「実は天下の副将軍である」とかアピールして、身分の高さで相手を平伏させるようなドラマはまず見ない。

 

「剣客商売」にも三冬の父・田沼意次(平幹二郎)の力を借りる話がたまにあるが、回数が少ないので許せる。

何より、意次役の平さんの声の良さ、立ち居振る舞いの風格が素敵だ。

 

昔、工藤栄一監督の「十三人の刺客」をビデオで見た時面白かったので、三池崇史監督版も映画館で見たが、「なんで、こんな悪趣味なものにしたんだろう」と不思議でならなかった。

 

土井利勝役の平幹二郎さんは座っているだけでしびれる風格。

工藤版で月形龍之介が演じた役は九代目松本幸四郎さん。

片岡千恵蔵がやった主役は役所広司さん。

「ザ・時代劇」が似合うキャストでわくわくさせておきながら、アレはないだろう。

 

いろいろ思い出したのは、昨日映画館で十代目松本幸四郎の「鬼平犯科帳 血闘」を見たからである。

雨なので迷ったが、夫が「帰りには止んでいるだろう」と言うので出かけた。

 

これは元々は映画館で見るつもりはなかった。

 

かって中村吉右衛門さんが主演したドラマ「鬼平犯科帳」は吉右衛門は素晴らしいが、お話がパターン化していて、うちは二人共3話か4話ぐらいしか見た事がなかった。

 

長谷川平蔵は火盗改めなのでお話が盗賊との闘いに限られ、バリエーションが少ないのは当然なのだ。

が、以前気になったのは、構図が「一家皆殺しにする極悪非道の盗賊」vs「盗みはすれど非道はせず」の盗人と鬼平、というワンパターン。

「犯さず、殺さず」を信条とする盗人というのは、まあ、実際いたろうとは思う。

が、「盗みはすれど非道はせず」と変に威張っているのがおかしかった。盗みだって十分悪事。自慢してどーする。

 

 

さすがに今回の映画ではそんなせりふがなくて良かった。

映画館まで行った理由は単純で、ただ、幸四郎の殺陣が見たかったから。

 

十代目幸四郎さんの映画は市川染五郎時代の「蝉しくれ」と「阿修羅城の瞳」(このタイトルで良かったかな?)をDVDで見た記憶があるぐらい。

カテゴリーの違う時代劇で、役柄の個性も正反対。が、どちらもしっくりしていて、この人の幅は案外広いと感じたものだ。

(そうそう、三谷幸喜さんの「ラヂオの時間」でチラと出てくる調整室の青年役がユーモラスで、あの演技はかなり好きだ)

 

 

で、今回の鬼平。

映画は展開が早く、音楽はわくわくさせてくれたし、若き日の平蔵をやっているのが幸四郎の息子・市川染五郎君なのも愉しかった。(発声がお父さんと似ているなあと思った)

 

それに、奥方役に仙道敦子さんが出ていたのも嬉しかった。

彼女は若い頃、酷いトレンディドラマに出ていた事もあるが、松本清張原作の「西郷札」という時代劇で見た時は、その所作の美しさ、立ち居振る舞いが印象に残り、「これからどんどん時代劇に出てほしい」と思ったものだ。

だから、そのドラマが縁で彼女が緒形直人さんと結婚し引退した時は、正直がっかりしてしまった。(もちろん、お二人が円満ならいいのです)

 

ストーリーは予想通りだし、ちょっと変な場面もある。

ネタバレ少し。

敵のアジトでおまさを助け起こし、かんざしを見せて・・という場面。「そんな事している余裕ないだろ」と言いたいところだw

そして、お待ちかねのクライマックス。

夜のシーンで、また暗い!(個人的に、とほほ)

 

 

が。

十代目松本幸四郎さんの鬼平はとてもかっこ良かった。

 

叔父の吉右衛門さんは年齢と共に風格と巧さで平蔵を見せていたと思う。

彼が近松の「心中天網島」(1969年、篠田正浩監督)で紙屋治兵衛を撮影した時はまだ24歳だったはずで、驚くほかない。(見たのは映画館ではなくDVD)

女房おさんと遊女小春の二役をした岩下志麻さんも良かったが、吉右衛門さんは若い頃から目を見張るような上手い俳優だった。

 

 

ただ、鬼平が若い頃遊び人だったという残り香は、どうだろう。

 

吉右衛門さんは根が真面目な人だったんじゃないかな。

あ、語弊がありそう。ただ、幸四郎さんの鬼平には洒脱(しゃだつ)さが感じられて、叔父さんとはまたひと味違った、魅力的な鬼平になる予感がした。