備忘録としての時代劇話 | なのはな22のふたり言

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本・テレビ・映画の感想が多くなると思います。たまにフィギユアスケート。
ミステリーや時代劇、ビジネスドラマが好きです。

ファンならⅭSテレ朝で2週にわたって見た、羽生くんのスケートについて書くべきなのだが、「美しい」という感想しか書けないので、詳しい事は他のブログを拝見する事にして、ここでは前回の続き、時代劇のお喋りをしたい。

 

 

三谷幸喜さんが大河ドラマの中で一番好きだと言っていた「黄金の日日」は、九代目松本幸四郎さんが市川染五郎時代に主演した大河ドラマで、呂宋(るそん)助左衛門という安土桃山時代の商人を主人公にした作品。

見たのは何十年前になるか、20代の時である。

 

出演者が豪華で、鶴田浩二・志村喬・丹波哲郎・緒形拳・津川雅彦・根津甚八、そして、サービス出演で高橋幸治さんを織田信長役で見られたのも愉しかった。

三谷さんの言葉がきっかけで10年ぐらい前にレンタルDVDで再見した事があるが、やはり昔の男優さんを見るのは嬉しいものだし、ドラマとしても面白く出来ていたが、市川森一さんの脚本は後半がかなり苦労(混乱?)していたように見える。

 

夏目雅子さんが演じた日比屋モニカは実在のキリシタンで、奈良屋宋札の妻となり夫を感化してキリシタンにしたが、2度目の出産後死亡した、というのが歴史事典にある。

 

なのに、ドラマでは石川五右衛門(根津)に強姦された後彼を愛するようになり逃避行について行くのである(また、こんなパターン)。

挙句、何かの植物毒のせいでお岩さんのような顔になり狂ったように死んで行く。

こりゃ、酷い。

実在とされる女性の生涯をこんなに歪曲してドラマ化するのは酷いなあ、と思ったものだ。

 

 

このドラマで好きなのは商人を主人公にした点。

映像が明るく、染五郎さんは華があり、秀吉(緒形拳)と対峙するシーンは緊張感があって忘れ難い。

緒形さんの秀吉が見事で、個人的には「秀吉」と言うと緒形さんがすぐに浮かぶくらいだ。

先日亡くなった唐十郎さんも特異なキャラクターで印象的だった。

 

根津甚八さんというと黒澤映画の「乱」にも出ていたが、私が彼の作品で印象深く思ったのは、NHKで見た画家・佐伯祐三のドラマだ。

パリで画家としての成功を目指すものの、出品しても落選続き。妻の米子(三田佳子)も絵を描くがむしろ彼女の方が評価されて、佐伯の精神は次第に壊れていく。

このドラマのおかげで、根津さんと言うと佐伯祐三を連想するようになった。

 

 

ところで、九代目松本幸四郎さん(現・二代目松本白鸚)といえば、舞台の「ラ・マンチャの男」のドン・キホーテや「アマデウス」のサリエリ役が有名で、昔「見たい~」と願ったものだが叶わなかった。

旧い映画はDVDでも見る事が出来るが、舞台は生もの。

ぐずぐず迷っていると永遠に機会を逸してしまう。

 

この人のTVドラマでは「王様のレストラン」(三谷幸喜脚本)が一番好きである。

寂れたレストランの立て直しに現れた伝説的ギャルソンの千石という役をこの人にした事と、服部隆之さんの明るく美しい音楽によって、洗練されたファンタジーのようなドラマに仕上がった。個人的には、三谷ドラマの中では「古畑任三郎」以上に好きと言ってもいい。(古畑は大好きだが、回によって出来のばらつきが大きい)

 

 

 

時代劇の話からずれてしまった。戻すと。

 

 

先月の26日の事。夜、お風呂を出てから何気なくTVを付けたら、Eテレで歌舞伎中継「籠釣瓶花街酔醒」(かごつるべさとのえいざめ)をやっていた。

これは江戸時代に実際起きた事件「吉原百人斬り」を三世河竹新七が世話物として書いた脚本。この場合の百人とはそのままの数字ではなく、「大勢」という意味。

 

地方の豪農・佐野次郎左衛門は痘痕(あばた)の顔の醜さから、自分は女性とは縁がないと思いこんでいる中年男。

ある日、仕事のついでに吉原を見物に行き、そこで花魁・八つ橋大夫に一目惚れしてしまう。

彼女に入れあげ、遂に身請けしようと妓楼とも話をつけるが、八つ橋には栄之丞という美男の間夫(まぶ・遊女の恋人)がいて・・・。

次郎左衛門を中村勘九郎、八つ橋を弟の七之助が演じていた。

二人とも初役らしく、後数回やればもっとこなれてきそうである。勘九郎さんはプレッシャーのせいか顔が瘦せて見えた。

歌舞伎は大きい顔の方が舞台映えするし、この役は尚更大きめの方が良さそうだ。

 

 

この物語は昔、片岡千恵蔵で「花の吉原百人斬り」と言うタイトルで映画化されている。

30年以上前にレンタルビデオで見た事があるが、八つ橋が水谷八重子さん(当時は良重)だったのにはびっくりした。

完全なミスキャスト。

(花魁は顔だけでなく声も綺麗でないと、花魁には選別されないと思うが、どうだろう)

 

が、片岡千恵蔵の次郎左衛門は素晴らしかった。

意外に演技が上手い、などと言っては失礼かもしれないが、本当に良かったのである。

顔の劣等感が強くて愛される事を諦めていた男が、八つ橋に優しくされて、どんどん気持ちが傾いていく心情がこちらに伝わり、いじらしいような遣る瀬ないような気分になった事をよく覚えている。

 

舞台では大勢を斬るわけにはいかないが、映画では狂気にかられた主人公がバッタバッタと斬りまくる何とも凄惨な幕切れだ。

知恵蔵はやはり顔が大きい人で、時代劇のスターが似合っていた。

 

男優さんの話になるといくらでも出てくるが、今日はこれで。

 

お付き合い、ありがとうございました