フィールド言語学者さんと物語とことわざと | タイの子どもの本日記

タイの子どもの本日記

タイの絵本や子どもの本、タイの文化などについてぽちぽちと書いていきます。もと日本人会バンコク子ども図書館ボランティア。ご質問などはメッセージにお寄せください。

 

私は体が弱くて、胃腸も弱いので、世界の辺境に行って何か月が暮らしてフィールド研究する方々のことはホントに尊敬していますし、その方たちの書かれた本を読むのも大好きです。

自分のできないことを本を読むことで追体験できるからですね照れ

 

ところが、このコロナ禍で、そうした研究者の方たちがフィールドに出ることができなくなってしまっています。

そんな中、たまたま、パキスタンあたりにあるフンザ渓谷で話される「ブルシャンスキー語(初耳!)」そのほか7つほどの言語を研究しているフィールド言語学者の吉岡乾(のぼる)さんの

 

『フィールド言語学者、巣ごもる』

 

という本を、ツイッターで見かけました。

 

これはおもしろそう!口笛

私の好きなフィールド研究者、しかも言語学、しかもコロナ禍でどうしているか。

1979年生まれでお若いし、私の好きなみんぱく(国立民族学博物館)の准教授さんでいらっしゃる。

これは読むでしょビックリマーク

新しい本のようだったので、アマゾンで注文。

と同時に、同じ著者の

 

『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』

 

を図書館で見つけて、借りてきました。

 

 

この本がコロナ前に書かれたもの、その続きが最初の本ですね。

いやーーー期待どおりのおもしろさ!爆  笑

とくに、子どもの本を考える方々にとっては、「物語」と「ことわざ」について、とーっても興味深くて、なるほどーーー!

と思わされることがあったので、ご紹介しますね。

 

1.フィールド言語学にとっての、「物語の大切さ」

 

フィールド言語学者さんは、まず現地に行って、何をするか。

 

1,語彙収集、2,文例収集、3.談話収集

 

だそうですが、その最初にのステップの「語彙収集」では、現地の方に、

「これはなんていうの?」

ととりあえず、500~1000語くらい収集するそうです。

 

しかし、それだけではなく、大切なのは「物語」を語ってもらって聴くことなんだそう!

 

「物語を聞くことで、さまざまな新出語彙に出くわすことがある。日常生活で目にしていたことなのに、訊きそびれていたものにもさまざま気づかされる」

「パウゥ (家畜を牧草地で繋いでおく)小さな木の杭」なんて、毎日目にしていたにも関わらず、物語で出てくるまでブルシャスキー語での名称を聞いていなかった」

「ダンラタという名の、恐ろしい鬼女に関しては、その物語を聞くまで、存在すら知らなかった」

 

なるほどですよね!!

日本語では「杭」だけで表されることばが、放牧をする地域などでは、何種類もの言い方があるなんて、気づきませんよね。

それに、「これはなんていうの?」と具体的に指し示すことのできないものもありますよね。照れ

 

私は以前、とある少数民族の方の語る「物語」の録音を聴かせていただいたことがあるのですが、言語は全くわからないにもかかわらず。

「この調子の良さは物語だ」

「ここは『くりかえし』だ」

ってわかっておもしろかったし、少数民族の中でも、そうやって共通の物語の形式があることには感動しましたニコニコ

 

3.言葉の消滅のタイミングは「ことわざ」のある無しではかる

 

言葉は、そのことばを話す方々が少なくなって、消滅してしまうことがあります。

吉岡さんは、こんな絵本の著者でもあります。

『なくなりそうな世界のことば』

 

たとえば日本でもアイヌ語はあわや話者が減って少なくなりかけたので、今新しく学ぼうとする若者がいます。

 

吉岡さんは、そのサインを「ことわざのある無し」で計れる、とおっしゃるのです。

 

「言葉のなくなり方は多様である。

ドマーキ語を調査していて、ある日、あることに気付いた。

―諺がない。」

つまりその言語で知識を運用するということが先細ってなくなってしまっているということらしいんです。

 

ところが、吉岡さんは、最近の日本の子ども向け作品から、諺が消えているのではないかと指摘します。びっくり

 

「魔界転生のライトノベルや漫画が昨今、雨後の筍のように大量発生しているが、そういった作品を見ていても、異世界ならではの諺とか、それっぽい比喩とかが基本的には登場しない。これはネタにできるかと思ったが、考えてみたらそれ系じゃない作品でも二十一世紀になった辺りからか、少年漫画とかで教養的に突如ブッ込まれる諺は見なくなった覚えもあるので、弱い気もする。火を見るほど明らかではない」

 

ふーむ。

諺って、その言語の文化や精神が端的に表れているのですよね。

(この文中の「雨後の筍」っていう慣用句も日本の自然文化から出ていますよね)

 

やはり、このステイホームの期間は、ボードゲームとしてご家族で『いろはがるた』をやるべきではないでしょうか?ウインク

 

 

 

私は海外駐在から帰国後、縁あって、たくさんの小中生に接する仕事もしていたのですが、ほとんどのお子さんが、「いろはがるた」の存在を知らなかったし、遊んだこともないというので、ショックを受けたものですびっくり

 

(ただし、中学受験するお子さんは、ことわざは受験対策として知っていました)

 

4.『はらぺこあおむし』はパキスタンではうけない!

 

 

絵本のことはくわしくない大人でも、『はらぺこあおむし』の名まえをあげる方は多いですよね。

あおむしくんが毎日次々いろんなものを食べて、最後にちょうちょになるというわかりやすいお話。

 

ところが・・・吉岡さんがパキスタンの山奥の現地調査で、読み聞かせしてみたら、全く理解されなかったそうです!

なぜかというと・・・

「彼らは蝶の完全変態を理解できていなかった」

からだそうです!

 

これは、身近に蝶がいない環境であるとともに、イスラームの教育では、教えないことではないかというからだそうです。

 

ほんとうに、まだまだ世界は理解しなければならないことがたくさんありますね!

 

おもしろいとともに、考えさせられる、さすが研究者の真骨頂と思いました。

とりあげた本の詳細については、こちらをごらんください。