私の好きなタイの絵本『トッケーのブーム』を紹介しなくては!
トッケーというのはでっかいヤモリのような爬虫類で、トッケートッケーと鳴きます。
『トッケーのブーム』ตุ๊กแกเบึ้ม
スクマポーン・インタナーサックสุขุมาพร อินทนาศักดิ์文
ウィーラユット・ラートスッウィチャイวีระยุทธ เลิศสุดวิขัย絵
1998年 こども財団出版
第4回子ども財団絵本コンクール受賞作
『子どもと青少年のための良書500冊』5-8才部門選定
お話はこんなふうです。
ある森の中にトッケーが1匹住んでいました。
おともだちのコオロギとなかよく暮らしていました。
コオロギは歌ってくれました。
「おおきくなったよトッケーのブーム ブームよりいいもの見たことない」
トッケーは森でただ1匹でしたし、たしかにコオロギとくらべれば大きいので、この歌を聞いてとてもほこらしく思っていました。
ところがある日、スズメが飛んできてブームを見かけて「なんてみにくいんだろう」と歌いました。
ブームはおどろき、自分は本当はみにくいのだろうかとなやみます。
そこで森を出て、きれいになる方法をさがしに行くことにしました。
森を出てしばらくすると歌が聞こえてきました。
「きれいだな きれいだな ずっと前からきれいだな ヒ ヒ」
ブームが見るとそれはひきがえるでした。
「なんてみにくいんだろう」とブームがおどろくと、ひきがえるは歌いました。
「みにくいな みにくいな ずっと前からみにくいな ヒ ヒ というのはほかのやつ おまえさんこそみにくいな ずっと前から みにくいな ヒ ヒ」
ブームは「ぼくはこれからきれいになるんだから見ていろ」というと、ひきがえるは「できないできない」と歌いました。「でもきれいになるんだから」とブームは歩き始めました。
すると、とても美しいものに出会いました。
「なんて美しいんだろう!」ブームがむちゅうになると、あとからついてきたひきがえるが歌いました。
「ちょうちょと花さ トッケーとはにあわない にあわない にあうのはひきがえると花さ ヒ ヒ」
ブームとひきがえるがあわやけんかしはじめるとき、1軒の家の中から子どもが歌う声が聞こえてきました。
「森の中に住むトッケー だれでも声をきくことができる ちいさなこどもこわがることはないよ トッケーが歌うと緑のへびがにげていくから トッケー トッケー トッケー トッケー トッケー トッケー トッケー」
ひきがえるは、あの歌はトッケーがみにくいから子どもはこわがるという歌だというのですが、ブームは家に行ってみることにします。
すると、一つの部屋で女の人が鏡にむかって何か顔にほどこしています。
見ているうちに、女の人の顔はきれいになってきました。
ブームはあれこそ、きれいになる方法だと思いました。
「どうかトッケーを助けてください」と出て行くと、女の人は大きなトッケーがいきなり出てきたのでびっくりして逃げていきました。
ブームのほうもびっくりしましたが、鏡の前に行きました。
今こそ自分の姿がどうなのか見るチャンスだ・・と。
そしてトッケーは自分を見て言いました。
「とってもきれいじゃないか! かわいくてきれい。白や赤や茶色の水玉もようが体中にあって、目はまるくてすんでいる。ぼくは大声でみんなに聞かせたい。トッケーはみにくくないよ!きれいだよ!って」
そこへこの家の男の子が入ってきてトッケーを見るとおとうさんに言いました。
「このトッケーをうちでかっていい?」
トッケーはまんぞくしてまた自分をほこりに思いました。
このお話のいいところは、今までのタイの絵本では、自分に満足できなくて旅に出るというパターンはとても多かったのですが、旅の間中ひどいめにあって、ほうほうのていでうちに帰って、「やっぱりもとの自分が一番」という形だったのです。
でもこのお話は旅に出てそれ以上にポジティブに「自分は美しい」ということを認識するということでとてもいいお話だと思いました。
ひきがえるとの会話もいじめられているというのではなく、おもしろい性質のひきがえるとの対話というふうになっているのでいい感じなのです。
作者のウィーラユットさんは、2002年に、『スイカの王子』という絵本で、ユネスコ野間絵本原画コンクール奨励賞を受賞しています。
これも、みんなに分ければ分けるほどふえていくスイカ、というおもしろいお話です。
さらに、『ラーマキエン』の中からとった『マイヤラープ軍隊を眠らす (マイヤラープ・サコット・タップ)』(この絵本については別にご紹介する予定です)』
は、2006年に、タイBBYからIBBYへのオナーリストの絵本の部門に選定されている実力派なんですよ!