呼んだ?


ううん、呼んでないよ


うそ、呼んだでしょ?


ほんとに呼んでないよ。

誰かと聞き間違ったんじゃない?


わかんない


そっか、ま、そんなことはいいから、俺と遊ぼう


何して遊ぶの?


何がいいかなぁ、かくれんぼはどう?


ふたりでやるの?


そっか、ふたりじゃつまんないか

じゃあ、おにごっこは?



やろうやろう

じゃあ、パパが鬼ね

ボク逃げるの得意なんだ

そっか、逃げるのが得意ってことは足が速いんだな


そうだよ、この前だって友達3人と競走して、

ボクが一番だったんだよ


へぇ、それはすごいなぁ


じゃあ、ボク逃げるね


あ、おい、待て


ほらパパ、ボクはここだよ

つかまえてみて


ほんとに速いんだな、

ふぅー、タバコもっと早くにやめときゃよかった…


どうしたの?そんなに遅いとつかまんないよ


ちょ、ちょっと待って

速すぎるよ


待ってあげないよ

あはははは


おい、待ってくれよ!!












僕はそこで目を覚ましました。それから間髪入れずに大声を出してしまいます。


「うわぁ!!」ユウコの顔が目の前にあったのです。

「こっちがびっくりするわよ。うなされてたと思ったら、急に叫ぶんだもの」とユウコ。

「あぁ、夢か……」


僕は額の汗をシャツの袖でぬぐいました。


「夢でうなされるなんて……おじさんになってもそんなことあるんだね?」

「おじさんでもあるんだよ。ほら、心臓がまだドキドキしてる」

「ドキドキってゆー歳ぃ?君、おもしろいね」


僕はユウコが愉快そうに笑っているのを見て、

ほっとしました。妙にすっきりとした気分です。


「男の子と遊んでる夢見たんだ」

「男の子?」

「うん、見覚えはない子だったけど。でも、俺のことパパって呼んでた」

「パパ?君、子供がいたの?隠し子?」

「隠し子ってなんだよ、まだ未婚なんだけど」

「知ってます」

「知ってるなら聞くなよな」


ユウコの額を指でつつきました。

ユウコは僕の指にかみつこうとしてきます。


「おい、やめろって」


ぐいぐい前に圧力かけてくる彼女を押しのけようとしたら、

不意に僕の首に抱きついてきました。

そして、ちからいっぱいに締め付けます。


「く、苦しいです。やめて…」

「いや、やめない」

「お、おい、ユウコ…」


なおもちからを込めるユウコ。

呼吸するのも必死な僕。


「ギブ、ギブ。何でも…言うこと聞くから…やめて」

「ほんとに?」

「ああ…ほんと…だから。何でも…聞くって」

「じゃあ、結婚しよう?」

「わかった、わかった……え?」


一瞬身を固くした僕に、ユウコは素早くくちづけしました。

僕は、さらに固まってしまいました。


唇が離れ、彼女は僕の目をまっすぐに見つめます。


「結婚するんだから、いーじゃない」

「おい、俺の意思はまったく尊重されないのかよ?」鼓動が高くなっていました。

「だって、何でも言うこと聞くんでしょ」

「普通こうゆーときに、結婚なんて出てこないだろ」

「いーじゃん、君のこと好きなんだからさ」


急にユウコは眉根を寄せて不安そうな表情を浮かべました。

僕が手術するのを不安に思ってくれているのでしょうか。


「…大丈夫、結構こう見えて頑丈だからね、俺」


そんな言葉で彼女の不安をぬぐえないのはわかっていました。

僕はそれでも言葉を続けます。


「…おなかの子、どっちかな?俺は男の子だと思うんだけど、ユウコはどっちがいい?」

「女の子がいい」

「君に似たら美人になるだろうけど、嫁にいかせるのがつらいから、女の子はいやだな」

「そんな先のこと心配してもしょうがいないじゃん」

「心配するよ。俺みたいなヤツが、お父さん娘さんをください、ってきたら、俺はどうすればいい」


将来のことを考えてみて、

改めて生きていきたいと思いました。


「君みたいなのがきたら、まずは2、3発殴ってやらないと、ね」

「そうだね。根性無いやつなら大事な娘はやれない」


と、ユウコは涙をぬぐうしぐさを見せて、僕から離れました。


「…入院の準備してくるね。元気に退院してきてよ。

結婚してもいいってゆー奇特ないい女が待ってやってるんだから」















パパは遅いね

ボク、まだ本気だしてないんだよ


ま、まじか

それはすごいな

これじゃおにごっこになんない


ご、ごめん


つまんないから、ママのところに帰ろう?

さっき、ママが呼んでたんだ

ごはんだよーって




小さな男の子は手を伸ばしてきます。

僕は男の子と手をつなぎました。


少し腰をかがめて並んで歩く姿は、

親子のそれみたいに見えるのでしょうか。




夢の続きを見てみたい。


冬が終わって春が来て、

遅咲きの桜が咲く頃には、

パパは君を抱いてあげられるのかな。