三寒四温ってゆーのは、近頃のような気候のことをゆーのでしょう。


窓から吹き込んでくる風は、冷たかったり、あたたかかったり。


日差しは強そうに見えても、気温はあがらなかったりして不思議です。


季節の移り変わりなんて気にしてきませんでした。


季節が変わっていっても、変わることのない薄暗い闇のようなものが僕の中にはいつもあって、それをどうすれば取り除けるのか、わからないからそのことを考えるのもやめてしまって、もう久しくなります。





空には雲がところどころに浮かんでいて、

春が近づいてきているのを教えてくれます。


汗かきの僕は、早くもあせばんでいて、部屋の空調をあわせにいきました。

呼吸を補助する器械をひきずりながらです。


と、ユウコが廊下をこちらにむかって歩いてくるのが見えました。


「気分はどう?顔色はよさそうね?」と彼女。


僕は右手でOKサインを送ります。


彼女はやさしく自分のおなかをさすっています。

僕は、その仕草がとても好きなのです。


僕もさわらせてもらいます。

彼女はほほえみました。


「とっても順調なんだって」


僕は笑みを浮かべてそれに応えます。

呼吸器のマスクで、僕はしゃべることができませんでした。


「元気な子を産むからね。楽しみにしててよ?」


うなずいて、少し涙が出てきたのを感じました。


命って素晴らしいんだな。

僕の今の率直な感想です。


この腕に抱いて、いろんなところへ連れて行ってあげたい。


いろいろな欲求がこころの中に浮かび上がるのは、

とても嬉しいことです。

そんなこと、もうずっと感じてきませんでしたから。


「今年は桜が咲くのは早いかも知れないんだってね」

ユウコは雑誌やら下着やらをしまいながら言いました。


「いっしょにお花見にいけるといーわね」


そうだね。


声にはできませんでしたが、

そっとつぶやきました。









おだやかな毎日を、

大切な人と過ごすことができる。


そんな幸せに、気づきました。


果たせない想いを胸に抱き続けて、

復讐にも似た感情を捨てたその先に、

生まれてきた意味をかみしめる。


ぽっかり穴があいていた胸はいつしか治癒していて、

醜い傷を、僕はかきむしることをしなくてもいいのです。










「…ねぇ、名前、どうしようか?」


ユウコが楽しそうなのを見て、

僕は呼吸補助のマスクをはずしました。
















…ユウコは、ベッドの端に腰をかけて、

  僕のあたまをやさしく抱いてくれました。


きっと、僕の考えていた名前を気に入ってくれたんだと思います。









桜が咲いて、

そして散って、

梅雨が来て、

日差しがきつくなって、

僕が毎日汗をふくのに億劫になったら、

君を海に連れて行ってあげる。










きらきら輝く、まぶしい海は、

きっと君も気に入ってくれると思うよ。