日大ラグビー部員の大麻不法所持事件について | 渡る世間にノリツッコミ リターンズ(兼 続日々是鬱々)

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フリーライター江良与一のブログです。主にニュースへの突っ込み、取材のこぼれ話、ラグビー、日常の愚痴を気の向くまま、筆の向くまま書き殴ります。

先週末に歌手の槇原敬之が覚醒剤と不法薬物所持の疑いで逮捕されたことで、私の記憶の底から浮かんできたのが標題の事件。

 

ラグビーファンのハシクレとして、今回の事件は残念の一言に尽きる。ワールドカップ以降のラグビー熱の高まりに冷水をぶっかける不祥事ではあるし、どん底状態から奇跡の復活を見せた日大ラグビー部の躍進を一気に消し去る出来事だったからだ。

 

さて、残念な気持ちを少し脇において、この事件について私が感じた問題点を二つほど挙げてみたい。

 

一つは挫折を味わったものをケアする制度の欠如である。

 

くだんの事件の当事者は、熊本の強豪校でキャプテンを務めたと伝えられており、かなりの高いスキルとキャプテンシーを持ちあわせて、期待に胸躍らせて入学してきたと思われる。ところが、いざ入学してみると、技術のレベルが本人の予想をはるかに超える高さだったのだろう。残念ながら正選手の座を掴むまでには至っていなかったようだ。そこで鼻っ柱を折られてしまって、やり場のない気持ちの逃げ場をクスリに求めてしまったというわけだ。そんな挫折はどこにでもいくらでも転がっているし、それを乗り越えて行くのがスポーツをする者の「正しい姿だ」と言い切ってしまうのは簡単なお話だが、それだけでは、今回のような事件は高い確率で再発してしまうだろう。

 

スポーツに限らず、人生においてはどんなシーンであれ、必ず競争は生じるし、そこには必ず勝者と敗者が出現する。そこで腐るか、発奮してさらなる高みを目指すか、別の道で生きる術を見つけるかは、多くは個々人の問題であるが、同時に社会的な問題でもある。敗者を受け止めるシステムがない社会は、落伍者をそのまま敗残者として落ちぶれさせておくだけの社会だ。今回の事件のような極端な例はごく稀なお話ではあろうが、一人の成功者の影に潜む数万の敗残者の負のエネルギーは社会にいい影響を及ぼすとは考えにくいし、何より、敗残者が持っていたスキルやエネルギーを無駄なものにとどめおくのは実に惜しい。最大の資源が「人間」である日本のような国においては特にその損失は惜しい。全てを救うことは難しいが、そのうちのいくらかでも救える制度があるだけでも、少なくとも犯罪にまで至る人間はグンと減るはずだ。

 

今回の日大の選手の例でいえば、例えばチームのマネジメントの方に早期に関わらせ、そのスキルを企業にアピールして確実に就職先を見つけるとかいう制度がもしあれば、少なくとも彼の選択肢を一つ増やすことができたはずだ。一度スポーツ推薦で入学したら、その競技でポシャってしまったら、大学にもいられなくなる、みたいな窮屈な決め事が多くの敗残者を生み、また、その落伍者が別の道をあゆむことを阻んでしまってもいる。大学単体でも、日本の社会全体としても、それなりの救済的な土壌を醸成して行くべきではないか。

 

もう一つは「連帯責任」のあり方である。現時点の報道では、部全体が大麻の不法所持に組織的に関わっていたのではなく、あくまでも当事者個人の罪であるらしい。学生という身分であるとはいえ、すでに成人している人間の罪を、部全体で負う必要が果たしてあるのだろうか?部の方から、無期限で活動を自粛するという申し出があったそうだが、せいぜい今シーズンの出場停止(およびその結果としての下部リーグ降格)くらいで止めるべきではないか。色々な経験をし、研鑽を重ねることで大いに力をつけることができる大学時代という時間を奪われることはいかにも無念だ。少なくとも当事者以外には罪はないのだから。無期限という出口の見えないあやふやな期間設定も絶望感をさらに助長するだけだと思う。仮に大学として、部としての決意だとするなら、希望する個人は他の大学や社会人のチームに移籍できる(そして即公式戦に出場できる)などの措置を講じるべきだし、少なくとも自主的なトレーニングまで禁止すべきではない。たまたま、犯罪者と同じチームにいてしまったという不運の影響を極力排除する方策を考えて実行すべきだろう。

 

昨シーズンの快進撃があっただけに、返す返すも、今回の事件は残念な限りだが、謹慎が明けた暁には、また素晴らしいラグビーをみせて欲しい。部外者である単なる一ファンとしては待つことだけしかできないが、応援だけはし続ける。