最判平27.12.14(相殺の抗弁と二重起訴) | 司法試験ブログ・予備試験ブログ|工藤北斗の業務日誌

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3か月ほど前ですが,相殺の抗弁と二重起訴に関する重要判例が出ていますので,ご紹介します。

事案:Xは,貸金業者であるYとの間で平成8年6月5日から平成21年11月24日までの間に行われた継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引」という。)により利息等の過払金が発生しているなどと主張して,不当利得返還請求権に基づき過払金等の返還を請求する本訴を提起した。これに対しYは,本件取引は一連のものではなく,平成8年6月5日から平成12年7月17日までの取引(以下「第1取引」という。)と平成14年4月15日から平成21年11月24日までの取引(以下「第2取引」という。)に分けられるとした上,第1取引に基づく過払金返還請求権は時効により消滅したと主張して消滅時効を援用し,第2取引については貸金があると主張して,Xに対し,貸金返還請求の反訴を提起した。この反訴に対しXは,上記本訴において第1取引に基づく過払金返還請求権が時効により消滅したと判断される場合には,上記反訴において,予備的に上記過払金返還請求権を自働債権とし,第2取引に基づく貸金債権(反訴請求債権)を受働債権として対当額で相殺すると主張した。

判旨:「係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し,許されない(最高裁……平成3年12月17日……判決……参照)。
 しかし,本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許されると解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
 時効により消滅し,履行の請求ができなくなった債権であっても,その消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には,これを自働債権として相殺をすることができるところ,本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断される場合には,その判断を前提に,同時に審判される反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権とする相殺の抗弁につき判断をしても,当該債権の存否に係る本訴における判断と矛盾抵触することはなく,審理が重複することもない。したがって,反訴において上記相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。このように解することは,民法508条が,時効により消滅した債権であっても,一定の場合にはこれを自働債権として相殺をすることができるとして,公平の見地から当事者の相殺に対する期待を保護することとした趣旨にもかなうものである。」

本件は,本訴請求債権の一部を,反訴の中で相殺の抗弁の自働債権として主張するという事案類型ですが,この類型については,大阪地判平18.7.7が「本訴及び反訴が係属中に,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張する場合においては,重複起訴の問題が生じないようにするためには,本訴について,本訴請求債権につき反訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については本訴請求としない趣旨の条件付き訴えの取下げがされることになるとみるほかないが,本訴の取下げにこのような条件を付すことは,性質上許されないと解すべきである。」として不適法であると判断していました。
今後は,この裁判例や,本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないとした最判平18.4.14との関係も含め議論が展開されていくことになると思われます。また,本件は,一連のXとYとの金銭消費貸借取引の経過という事実関係において,本訴と反訴に強い関連性が認められる事案だったために,その射程距離についても問題となりそうです。

最判平18.4.14は,平成27年度の司法試験で出題されたので,さすがに平成28年度の司法試験では出題されないと思われますが,予備試験では類似の出題がありうるかもしれませんので,一応チェックしておいてください。

※ 同日に出された,行政事件訴訟法上の訴えの利益に関するこちらの判例も併せてチェックしておいてください


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