優子メール「今、バスに乗りました」

優子メール「今、名古屋を通過しました」

優子メール「猿田彦神社に到着! 佐瑠女神社(猿田彦神社の境内にある縁結びの神社)にもちゃんとお参りしてきたからね!」

優子メール「思ったより気温が上がって、日中は長袖では暑いくらいでした」

優子メール「旅館、すごく快適です! 明日は伊勢神宮にお参りっ!」

 

その日、なぜか一方的な不倫相手からのメールだけが受信BOXに残されたままになっていました。

もちろん、母がメールをチェックできたということは、父は家にいたということ。

私たちが1週間ほど前から疑っていた伊勢旅行は、どうやら優子のひとり旅(か、どうかはわかりませんが)だったようです。

 

母はなんだか少し嬉しそうに、「今日は一方的にメール送りつけてきてるニヤニヤ」とLINEで報告してきました。

 

その数日前、「伊勢なら名古屋経由になるだろうから、私、ちょうど名古屋に行く予定があるし、鉢合わせ狙ってみようかな」なんて話をしていたところだったんです。

還暦女と不倫旅行中に娘と鉢合わせるとか、まあ、なかなかな地獄絵図ですよね。

しかも、ここ数年ほぼ会話のない長女のほう(私)だったら、なおのことでしょう。

 

そう考えると、なんとしてでも遭遇してやりたい! とやる気満々でした。

そのために、父の勤務スケジュールや女の休みを一生懸命探っていたのですが……その甲斐なく、あっさり旅行は終わりを迎えてしまいました。

 

優子メール「内宮、正宮にきました! まだ暗いです」

優子メール「今、帰りのバスです」

優子メール「浩一郎とのこと、伊勢神宮でもしっかりお参りしてきたよ。いろんな神様にお願いした!(おかげ横丁の写メ付き)

優子メール「すっかりウトウトしちゃってもうすぐバス停です。浩一郎は元気ですか? 私は歩き疲れてヘトヘト」

 

実際には、もっと大量に、それは事細かに(朝ごはんは何食べたとか、移動中に●●が見えたとか)メールが届いていたのですが、まあ、くだらないので割愛します。

で、この最後のメールには、還暦お婆ちゃんの超ぶりっ子自撮り写真が2枚、添付されていました。

私たちが確認していた女の写真は、彼女の免許証のもののみ。

それも、なぜか7年前に期限が切れたものだったため、今よりはだいぶ若い頃のものでしょう。

そのせいか、写メを見て、またもや絶句しました。

 

妹「なにこれ…まじでただのお婆ちゃんじゃん」

母「いい年して自撮りとかきっついよね」

私「なんか、ダダにそっくりなんだけど……」

 

ダダ、わかりますかね?

ウルトラマンの怪獣、三面怪人ダダ。

 

引用元/https://m-78.jp/geed/kaiju/

 

なんていうか、これに寝取られたと思うと、私ならHPが一気に減りますね……。

 

まあ、優子がダダだったことはさておき、それにしても、日付が変わっても相変わらず優子からの一方的なメールしか見つかりません。

 

妹「自分が送ったメールだけを消してるって、なかったパターンだよね」

 

理由がわからないまま、また一夜が明けました。

そして翌日、

 

母「喧嘩してたっぽい」

 

LINEには、2人のこんなやり取りが残っていました。

 

優子メール「浩一郎、まだ電話に出てくれないの? 私は話させてももらえないんだ」

 

メール「優子の希望通り、俺はメールも電話もしませんでした。さぞ、楽しめたでしょうね」

 

なんとも嫌味ったらしいメール。

 

母「昨日、機嫌悪かった理由がわかったわ」

 

優子が帰宅の報告メールを送ってきた前日、父は機嫌が悪く、帰宅後すぐに寝室にこもってしまったそう。

そのご機嫌ナナメだった日こそ、クソジジイが母に例の手紙を残していた日でした。

 

母「優子と喧嘩して、気が気じゃない時にあの手紙を書いてたってわけだ」

 

母が手紙に涙していた頃、クソジジイは不倫相手からの一方的なメールを見ながら、喧嘩のことで頭がいっぱいだった。

単に愛情のカケラもない手紙を突きつけただけでなく、母のことなんてまじで微塵も考えていなかったわけです。

 

そしておそらく仲直りしたのであろうこの夜、父のスマホの待ち受けは、優子が送ってきた伊勢の写真に変わっていました。