イギリス在住のライター、ブレイディみかこさんが

「群像」で連載したイギリス社会に関するエッセイをまとめたもの。

イギリス社会について知る機会が少なかったため、

ブレイディさんの作品は毎回本当に面白い。

とくに貧困によく目を向けているし、

翻って日本社会はどうなんだろうという考察がとても興味深い。

 

このエッセイ集で印象に残ったのは、

イギリス初という「フードバンク」をテーマとした絵本について書かれた回だ。

この絵本(『It's a No-Money Day(きょうはお金がない日』)は、極貧のシングルマザーと子どもが食事に事欠き、フードバンクを利用する様子が描かれている。

 

 

それが「ふんわりと優しいタッチの表紙」で「愛らしく」描かれている点に

ブレイディさんはひどくショックを受けた。

 

こんな風に愛らしい絵本でフードバンクが生活の一部として

明るく受け入れられてしまえば、

フードバンクの存在に対する違和感や怒りも風化する。

(中略)

つまりフードバンクや慈善事業は、

貧困者を一時的に助けるための緊急措置として存在すべきなのであり・・(以下略)

 

かつてイギリスでフードバンクとは、

ホームレスや無職でお金を使い果たした人が利用するものだったそうだ。

それがいまや絵本に出てくるように、貧しい親子までも利用するようになった。

まじめに働いても3度の食事が満足にとれない社会。

これを、ほのぼのとした絵本にしたて、

社会のひとつのありようとして受け入れてしまうこと。

これは絶対におかしいとブレイディさんは言うし、私も本当にそのとおりだと思う。

 

私が、日本でも同様のこととして違和感を感じているのが、

「子ども食堂」だ。

貧しくて食事がとれない子どもたちに

民間人が無償または格安で食事を提供する。

素晴らしい取り組みだと思うし、取り組んでいる方たちには本当に頭が下がる。

いまや全国に9000カ所以上あるそうだ。

ただ、これを「素晴らしい」と称賛してしまってよいのか。

美談にしてよいのか。

そもそも、貧しくて食事がとれない子どもが存在すること自体、

国として、社会として、

どうかしているのではないか?

子ども食堂のない社会を目指すべきではないか。

 

…とまあこんな風に、ブレイディさんの作品からは

毎回なんらかの気づき、というか怒りを呼び覚まされる。

素晴らしいライターさんだと思う。

これまでも何度かこちらに書いてます。