『大丈夫、私を生きる。』 トリーチャー・コリンズ症候群を持つ女性。 | ドリアン長野の読書三昧

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著者はトリーチャー・コリンズ症候群という五万人に一人という難病を持って生まれました。
顔の変形だけでなく、この病気は死の危険と隣り合わせなので見た目をよくするためではなく、生きていくために何度も手術を受けてきました。
彼女は小さい頃から「視線の凶器」を受けてきただけではなく、心無い言葉をぶつけられてきました。
「おばけ」「怖い」など。あまつさえ、指差して笑う人もいました。

彼女は生まれつき耳が完全に形成されなかったので、8回の手術によって両耳を作りました。マスクをつけられることにより、行動範囲が劇的に広がったのです。

ある人は「整形すれば?」と言います。しかしトリーチャー・コリンズ症候群は整形手術では治せません。元々あるべきものがないからです。その状態を改善するために多くの形成外科手術を受けてきました。主治医からは現地点で、これ以上できる手術はないと言われています。

高校三年の時に勇気を振り絞って全校生徒の前で自分の障害について話しました。その経験が大きな人生の転機となったのです。大学卒業後に市役所に就職しますが、補聴器を使っている彼女には電話対応の声が聞きとれず、障害のせいで自分の声も相手に伝わりにくいのです。それから職場に行くことが辛くなり欠勤も増えていき、長期休暇もしましたが、家族のサポートもあり仕事を続けることができました。以前はできなかった上司や先輩に相談できるようになったことも一助になったのです。

ネットで「自分が記代香さんだったら耐えられない」「生きていける自信がない」という書き込みに対して彼女は言います。

「『自分だったら耐えられない』という人たちは、私の人生のつらい面だけを切り取って、そういう感想を持つのかもしれませんが、見た目だけで判断して、『無理』と決めつけてはいないでしょうか。誰の人生でもつらいことや苦しいことはあると思いますし、うれしいことや素晴らしい思い出もたくさんあるでしょう。同じように、私にはトリーチャー・コリンズ症候群に生まれたことで得た、宝物のような出会いや経験があるのです。
今ではそうしたネットの書き込みに傷つくことは少なくなりましたが、『勝手に私の人生をあなたのものにしやんといて』、と思います」