『旅ドロップ』江國香織 | ななほん

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読書が好きなわたしの、日々の読書記録です。
お仕事では身体を、読書では頭もしっかり動かしたい。
文学が好きですが、ジャンルとらわれずまんべんなく読むようにしてます。
たまに映画。

 

 
 
全体的に静かなんだけど、どこかポップで色鮮やかな江國香織さんの作品は好きで、たくさん読んでいます。
こちらは一篇が3ページほどの短い旅エッセイです。
 
わたしたちが『旅』と定義するものを超えてしまっているのがすごい。それは「人生は旅です」とか「日常が旅です」とかそんなものじゃなくて、ラジオから手紙から動物から、具体的ないろんなエピソードから著者が感じた『旅』のお話で、そしてそれをわたしも「それは旅だ!」と納得できるのもすごい。

旅をするって、どこへ行くか、何を見るか、誰と会うか、どんな経験をするか、なんじゃなくて、自分が何を感じるか、がすべてで、豊かな感受性があればどこへ行っても、むしろどこにも行かなくても旅なんだなぁと、この本を読むと思う。
どこか別の場所というのは感受性が発動?しやすいかもしれないけど、行かないからこそ感じることもあるというか。


そのてきぱきした働きぶりや無駄のない動作、落着いた物腰のすべてが好ましかったのだが、私が目を奪われた彼女の最大の特徴は、笑わないことだった。無愛想というわけではない。客が冗談を言えば、儀礼上かすかに口角を上げるくらいのことはする。が、それはあくまでも形であり、形にすぎないことを、自分にも周りにもあえて示しているかのような態度なのだった。でもその一方で、彼女はとても生気に満ちたいたずらっぽい目と大きな口を持っていて、家族や恋人といるときにはよく笑い、鮮やかな、いっそあけっぴろげといっていいような笑顔を見せる人に違いない、という想像ができた。