『みずうみ/三色スミレ/人形つかいのポーレ』シュトルム | ななほん

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読書が好きなわたしの、日々の読書記録です。
お仕事では身体を、読書では頭もしっかり動かしたい。
文学が好きですが、ジャンルとらわれずまんべんなく読むようにしてます。
たまに映画。

 

 

ここ数カ月読んだ本の中でも一番よくて、一気に読んでしまいたいところを味わうようにして一篇一篇ゆっくり読みました。

湖とか月とか植物とか自然描写が美しいなと思いました。話の内容としてはとてもありそうで普遍的、登場人物のあり方とか心情とかが美しくてとてもリアルなんだけど、わたしのリアルは「2年間ほっとかずに手紙くらい書きなよ」だし「肖像画はせめて隠しておくべきじゃない?」だし「そんな都合よく偶然再会できないでしょ」だし、なんかもう少し姑息にやり過ごしたり立ち回ったりしちゃうんだろうな~全然美しくないな~とがっかりする気持ちがあるので、共感というより憧れという感じ?失くしてしまったものを惜しむ感じ?がします。


わたしはやっぱり『みずうみ』が一番印象的で、ただひたすら純粋な2人として読んだけど、ラインハルトのあざとさみたいなものも見えてきたりもしました。

でもそのあざとさも、若いあざとさというか計算のないあざとさというか、純粋さを引き立てるあざとさにしかわたしには感じられないので、やっぱりファーストインプレッションは大きい。


もしかして、こういうありふれた感じや理想的な感じがおもしろくないと感じる方もいるのかなとも思うけど、今回はわたしはある意味童話みたいな感じで楽しく読めたし、読書するとけっこうひねた自分を見ることが多い気がするので、この本をいいなと思えたことがすこし安心というか自分よかった!と思ったり。

 

「古典は特に、数年して読み返すということが大切」ということを聞いて、例外ももちろんあるけど、わたしは読んだ本は処分してしまうことも多いので、これからは手元に置いておこうかなという気になったりしました。

 



月はもはや窓ガラスを照らしてはいなかった。あたりは暗くなったが、老人はいまだに手を組んで肘掛け椅子に座り、ぼんやりと部屋のなかを眺めていた。周囲の暗闇は、彼の目の前で次第に広くて暗いみずうみの形を取り始めた。黒い湖面が延々と続き、どんどん深く遠くなり、一番奥の、老人の目がほとんど届かないほど遠い場所に、一輪の白い睡蓮の花が、幅広の葉のあいだでぽつんと浮いていた。