映画『慌てず騒がず』 | 白玉猫のねむねむ日記

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インド映画『慌てず騒がず』



若い時の恋と、
晩年になってからの恋。
二つの恋の、
はじまりからゴールまでが
温かなタッチで描かれている。


ハッピーエンドのラブストーリーながら、
貧困や苦しさや、孤独の痛みが、
恋の経緯と並行して綴られており、

そのため、見終わると
ほんわか気分のなかにも、
一抹の苦みが混じる。



インド映画でよく見かける

歌やダンスのシーンは殆どない。


主な登場人物は四人の老若男女。

その一人一人を深く掘り下げてあるので、

群像劇ともいえそうだ。





❶【晩年の恋】



2023年、ムンバイ。


老人は、健康に恵まれ、

お金はそこそこあるものの、

妻を亡くし、

何年も寂しさに耐え、

死を待つだけの虚しい日々を過ごしていた。


そんなある日、老人の家に泥棒に入る。



鉢合わせした泥棒にむかって

老人は「金ならやるから、殺してくれ」と

懇願していた。

それほど老人は孤独で、生きることに絶望していたのだ。



一方、泥棒は

プロの犯罪者ではなく、

本業は婦人服の仕立て屋。

アマチュアのコソ泥だった。


コソ泥はまだ若く、

貧しさのあまり盗みに手を染めていたが、

根は小心で、内気な青年だった。



青年は老人の反応に驚き、

揉み合ううちに怪我まで負わせてしまい、

大慌てに慌てて、逃げ帰える。



老人の怪我は軽かったが、

この一件で、

老人は警官(署長?)から、

もっと社交的になるようお説教される。

 



警官(署長?)の忠告に従い、

老人は公園仲間を作ろうと出かけるが、

不審がられるばかりで、仲間の作り方がわからない。




途方に暮れていたら、

買い物中の老婦人が目にとまる。



老人はふいに閃き💡

「そうだ!この婦人を観察し、彼女から友だちの作り方を学ぼう!」と、思いつく。



この時から、老人の老婦人ウォッチングが始まった。





実は、この老婦人も

老人と同じように、お金にはそこそこ困らないものの、

夫に先立たれ、息子夫婦とは心が通わず、

友人たちからは冷たくあしらわれ…etc、

孤独な境遇だった。



老人は毎日、老婦人を尾行し、

老婦人の住むアパートの警備員に、顔を覚えられる。

(老婦人は全く気づいていない!)



老婦人のアパートに泥棒が入った日も

アパートの付近にいたのを警備員に目撃され、老人は交番に連れていかれる。



(泥棒は老人の家に入った、あの若者だった)




再び、警官(署長?)と対面した老人は

老婦人をつけ回した理由を問われ、


「調査です!仲間作りの方法を学ぶためには、調査が1番です!」と答える。



これには警官(署長?)も大爆笑





初めは警戒していた老婦人も、

警官(署長?)が老人は善良な人物だと太鼓判を押すと、心を開きはじめる。




老人と老婦人。

暇人同士、時間はたっぷりある。


毎日のように、街に「調査」に繰り出し、

ささやかな冒険を楽しむ、二人。


海を眺め、過ぎし日々を語り合うこともあった。




何年かぶりに笑い、

何年かぶりに はしゃぎ・・・


二人の、長く灰色だった人生は

いつしか、鮮やかな色彩を 取り戻していた。




いくつかのエピソードがあり

老人と老婦人は

残りの人生を

共に生きることを決意する。




老人と老婦人の間柄は

恋愛というより

友情、それも極上の友情のように

わたしには感じられたのだが、

それが「晩年の恋」というものなのか。




この老人と老婦人の物語は

有意義な晩年を過ごす上で

日本人にも、とても参考になるのではないだろうか?


この二人に、心から祝福を贈りたい。







※注意

レビューは❶、❷と分けて書いたが、

映画は「晩年の恋」「若者の恋」などと、分けてなく、すべて同時進行していく。












❷【若者の恋】


※ 注意

・レビューの❷は時系列順ではなく、この映画のなかで、最も心に残ったシーンから書いている。


・❷の「若者」= ❶のコソ泥の「若者」








「兄嫁が来て、兄は変わってしまったんだ。

兄が、火のついた薪で母の頭を殴ったから、僕は兄の額を割った。



それで家を出ることになって…





駅で別れるとき

母に泣かれて、とてもつらかったな・・・




もう、村には帰らない。 


だって、もし、母さんが死んでいたら

そんなの、悲しいだろ?」





若者の話しに、友人は絶句する。




故郷行きの夜汽車を見つめながら、

若者は、さらに

本業で行き詰まると、

盗みで凌いできたことを告白した。




「僕は、死ぬべきなのかな? 

線路に横になれば死ねる・・・」







夜汽車の灯りが美しい、ムンバイの駅の夜景とは裏腹に、

窓を眺める若者と友人の姿は、とても物悲しい。


社会的なセーフティネットが不備な街で

生きる過酷さが、

ひしひしと伝わってくるような、

悲しく美しい、

忘れられないシーンだ。








このように、若者はとても貧しい。

だが、彼の恋人は、さらに貧しかった。


溌溂として快活な娘なのに、

彼女の仕事は乞食か売春


(娘の職業の極端さに、

カースト制度が影響しているのか? 

チラリと思ったが、

この作品の中で、そこに触れることはなかった。)



ただ、そんなどん底にありながら、

娘はエネルギッシュ!

若者とちがって、とても生き生きとしている。

 



勝ち気で、弁が立ち、姉御肌。


乞食のときは地味顔なのに

娼婦のときは

別人のように美しく変身する。


彼女は賢く、そして強く、

何より大都会を生き抜く逞しさがあった。


娘の溌溂とした姿に、

若者は一目で惹かれた。



娘もまた、若者の優しさに惹かれ、

二人は愛し合うようになる。







だが、恋に波乱はつきもの。




若者が借金していることを知ると

娘は黙って出かけ、

売春で大金を稼ぐと借金を精算し

戻ってきた。



(金貸しはポン引きもしていた男で、娘と顔見知り)


 




若者は傷つき、

そんな若者に、娘は苛立つ。



咎めるような、泣き言のような、

若者の言葉に

娘はキレて、

派手にビンタをくらわす!


頬を抑え、泣き喚きながら

雑踏の中を走り去る若者。

 



かなり情けない若者なのだか、

それでも二人の愛は壊れなかった。





ヒモ体質のダメンズなのか?

プライドが低いのか?

それとも思考回路が柔軟すぎるのか?


若者のことを、どう考えればいいのか

実は、よくわからない。

(苦笑)









娘のおかげで借金から解放され、


老人&老婦人の好意で

一連の窃盗の容疑者から外れることができ、


未収の仕立て賃も貰え、


若者に運が向いてくるところで、

この映画は終わる。


 



貧しく、若い、このカップルに

老人&老婦人のような安定感はなく

この先、大変そうにみえる。


だが、気持ちはとても優しく、

根は真面目な若者だ。

仕立て屋としての腕もいい。


今後、

娘が

悪い奴らから

若者を守り、


二人が力を合わせて頑張れば

仕立て屋を生業にして

生きていけるかもしれない。


そうなることを、祈る。

若い二人に幸あれ・・・

🙏








- 完 -














映画のストーリーの紹介と感想は

以上になる。

本筋から外れるが、一つ、印象に残ったことがあった。




下記に貼った画像のように

日本とインドでは

人工分布図の形が大きく異なっている。




それなのに、ムンバイでは、近年
  • 独居老人の孤独死
  • 老後の生き甲斐


が、社会問題化しているという、

警官(署長?)の台詞があった。



子供や若年層が多い社会では

このような問題は起こらないと思っていたので、とても意外だった。


世界はわたしが考えるより、

もっとずっと複雑に出来ているのかもしれない。









原題, Mast Mein Rehne Ka. 

監督 

出演者

ジャッキー・シュロフ

ニーナ・グプタ

モニカ・パンワル


2023年インド  127分