江戸の改革者と発明家
こんなとき、あんな本

「小説 新井白石」、「小説 田中久重」 童門冬二

 新井白石には「折たく柴の記」という回想記がありいつか
読もうと思っている。

 犬公方・綱吉の次の将軍・家宣のブレーンとして活躍した
博識の学者である。
家宣の甲府時代から仕え、子の家継と二代の将軍に仕えたが
その活躍期間は短い。

 改革を行うには上司とチームに恵まれないとできないのは、
今も昔も変わらない。
秀才学者が運よく一時でも時のトップに信任されて、改革に
腕をふるえたのは幸運であったと言わねばならない。

 その経験があり、後は不遇と言えども世に残る著作を残し
読み継がれている。
幸せな人生と言うべきであろう。

 田中久重は、からくり儀右衛門である。
明治14年、83歳の高齢まで生きた。
「発明によってだれかさんを喜ばせたい」というモチベーション
に生きた人だという。
息子は、佐賀藩勤め時代に反改革派に長崎で斬殺という不慮の
死を遂げている。
養子である二代目久重の会社が後の東芝になる。

天才が人に恵まれて功為した例であろう。
鼈甲細工職人の息子がモノづくりに従事するなかで、天才を
芽生えさす。
自身の努力と人に恵まれ支援され天才を発揮させていく。
久重のモチベーションに伴う純粋さが人々に支持されたという。

 この本では、著書や手紙が少ないのか人物像が浮かび上がって
こないのが残念だが、激動の幕末と明治初期の人々の人情や気骨
もうかがい知れる読み物である。

 作家の好みなのか「水に落ちた犬は石で打て」という言葉が
二作ともに使われている。
 白石も久重もこの状態に陥ったが自身の正しいという信念と
真の理解者がいて、これを乗り越えた。