リバーサル・レート(反転金利)について | 批判的頭脳

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先日、「金融政策は民間金融(純)資産を増やさない。統合政府負債=準備預金+国債の内訳を弄るだけ」、「民間金融(純)資産を増やすことが出来るのは財政政策」というコラムを書いた。

今回は、さらに踏み込んで、中央銀行が金融機関から有利子資産を買い上げることの経済的帰結について詳しく論じていくことにしよう。

中央銀行が金融機関から有利子資産を買い上げて、代わりに流動性を供給することによって、流動性の調達コストが減少し、信用拡大が促されるというのがオーソドックスな金融政策の構造となっている。

しかし、あまりに短期金利が下がれば、それ以上の利下げによる恩恵はほとんどなくなってしまう。

それどころか、金融機関にとって収益手段となるはずの有利子資産が買い上げられることで、金融機関の利益が著しく毀損し、経営悪化による信用不況を却ってもたらすことが起こり得る。これがいわゆるリバーサル・レートの議論である。

「中央銀行の利子収入が国庫に納入される」という話はよく知られていると思うが、統合政府レベルでこれを表現すると、統合政府が保有する資産の利子収入は、事実上民間に対する徴税として機能すると換言することができる。

つまり、金融機関からの有利子資産購入は、当該資産の利子を徴税で召し上げたのと同じことなのだ。

少なくとも一面的には、金融機関からの有利子資産購入は金融機関に対する徴税として機能するわけであり、だからこそ、信用不況の原因となり得る。

もちろん、流動性調達コスト低下も平行するわけだが、既に金利が低ければその恩恵も小さい。
民間の信用需要が不況ゆえに弱ければ尚更である。

こうした状況に対し、「金融機関の本分は貸出なのだから、いかに有利子資産の召し上げで苦しいとしても、積極的に貸付して自力で乗り切るべきだ」という新手のシバキ論が巷に出回っている。

しかしながら、全体的な不況の中では利潤競争はほぼゼロサムゲームなのであって(必要なのは実物の財貨ではなく帳簿上の利潤なのに注意)、そうした中では銀行全体で何とか出来る水準などたかが知れている。
そんなマクロ状況の中で積極的な投融資などをすれば、どこの何銀行とは言わないが、それこそ破綻の憂き目に合うわけだ。

しかも財政当局はというと、少しでも経済がマシになりそうな雰囲気があれば、間髪いれず緊縮で水を差そうと虎視眈々と狙っている次第である。
こうした中で銀行が積極的にリスクを取りに行くなど以ての他である。

マクロの不況的状況と政府中央銀行からの実質徴税の板挟みの中、じり貧を強いられているのが銀行の現状なのだ。


しかしながら、銀行のために利上げしろなどと言うつもりは毛頭ない。

問題なのは、銀行の利潤が圧迫されていることなのであって、銀行の利潤(のみならず経済全体の利潤)が保証されれば良い。、
その最も有効な方法は、財政赤字の提供に他ならない。民間部門全体の黒字の形成は、財政赤字によってなされるのだから。

逆に言えば、それなくして問題解決は極めて困難となる。

増税に反対し、国民への金融資産の供給が必要だと考える人々のうちの少なからぬ部分が、銀行に対しては事実上の増税を伴う”シバキ”政策を称揚するというのは、大変奇妙な構図と言えるだろう。


(上記コラムと似た観点からマイナス金利政策を批判した記事として、マイナス金利再考 ――マイナス金利の"緊縮"性という過去記事があるので、そちらも是非ご一読を)