Why not "Policy Mix" NGDPLT? (寄稿コラム) | 批判的頭脳

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「自由貿易の栄光と黄昏」

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「「お金」「通貨」はどこからやってくるのか?」などなど……


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私が具体的な政策論として推奨しているのは、タイトルに書いた通り"Policy Mix NGDPLT"である。

NGDPは名目GDP、LTはLevel Targeting (水準目標)であり、日本語で言えば、『財政金融併用の名目GDP水準目標』という具合になるだろう。

本来、NGDPLTはマーケット・マネタリズム(市場マネタリズム)と呼ばれる一派によって提唱されてきた。
市場マネタリズムは、「中央銀行は、貨幣増刷による価格アプローチによって、いつでも名目GDPへ経路を持つ→中央銀行はNGDPをターゲティングできるし、するべきだ」という考え方である。
参考リンク:
マーケット・マネタリズム 第二のマネタリスト反革命(本文) BY ラルス・クリステンセン
真の(REAL)問題は名目(NOMINAL)だった BY SCOTT SUMNER
わがロールモデル、ジョージ・ウォーレン BY SCOTT SUMNER

このMMという考え方自体は大いに誤謬含みだ。最大の問題は、中央銀行はマネーをコントロールできる部署"ではない"というところである。

これまでの貨幣論まとめでさんざん論じたように、中央銀行それ自体には、マネーサプライへのアクセス能力はない。マネーサプライへの直接のアクセス経路を持つのは、中央銀行ではなく財務省であり、財政政策なのである。

裏を返すと、NGDPLTという方法論は、「財金併用」という前提を置けばワークするのではないか、というのが私の考え方である。(だからこそ"Policy Mix" NGDPLTと題したのである)

「なぜNGDPLTが望ましいのか」については、以下の二つのポイントが重要だ。

①なぜ"成長率"目標ではなく"水準"目標なのか?

これはインフレ率目標と物価水準目標の対立点とも共通するところなのだが、もし成長率をターゲットにした場合、ある年に目標をアンダーしてしまうと、それ以降のNGDP目標値がすべてアンダーしてしまうことになる。

(ある時点における)望ましいNGDPの水準から、天下り式に望ましい成長率が決まっているのに、一時点のアンダーによって望ましいNGDPに永遠にキャッチアップできないのは構造的に問題がある。

そもそも、事業は数年から十数年、場合によっては20、30年のスパンで計画される。
そこで重要なのは、数年後や十数年後のある時点において、名目所得がどれくらいの水準であるか、という予想である。
水準目標は、この予想を安定化させることができるが、成長率目標は、この予想を安定化させることができない。
したがって、名目所得・総需要の実績と期待の安定化には、NGDPLTが最適になる。
(余談だが、藤井聡氏が「救国のレジリエンス」という著作で「10年でGDP900兆!」というフレーズをぶち上げていた。このコンセプトはまさしくNGDPLTであるし、藤井氏の論調的にも完全に"Policy Mix" NGDPLTである。)


②なぜ物価水準ではなく、名目GDP水準なのか?

この場合の物価は基本的に消費者物価(CPI)になるのだろう。CPIと名目GDPが大きく乖離するパターンは何かというと、"輸入インフレ"である。

輸入インフレは、CPIにおいては基本的に「上昇圧力」になる。輸入財が資源や食料などであった場合は、コア指標などにおいて影響が除去されるのことになるが、それでも輸入インフレはCPIコア指標に対して「中立」ということになる。

しかし、名目GDPは名目GDP=名目国内生産+名目輸出-名目輸入で記述されるため、輸入インフレは名目GDPの下落圧力になる。(GDPデフレーターで見れば、輸入インフレはデフレ圧力になる)

CPIを基準にする場合、輸入インフレに対しては無策であったり、逆に引き締めが生じる場合がある。しかしそれは、無用な景気後退を起こすことにしかならない。

名目GDPを基準にすれば、輸入インフレによる「名目所得”下落”ショック」に対して、適切に財政金融政策的フォローを行うことが出来るのである。

(余談だが、スティグリッツは「インフレターゲッティングの失敗」という論考で「インフレ目標は、輸入インフレに対して引き締めを強要し、不況を齎すので反対だ」と論じている。私はこの見解に大いに同意するところである)

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