そして18時。
助手席で気持ちよく寝ている雅紀の頬にキスを落として起こした。
「雅紀。着いたぞ」
「へ?は??え???」
「ふはははは。そりゃ、驚くよな?」
「ええええーーーー!!!!!」
駐車場スペースの様子を見て雅紀が驚くのは無理もない。
だってここは雅紀んちだから。
つか、雅紀の実家だから。
「ごめんな。晩飯に関してはワガママを聞けねぇっつーのはこういう事だったんだ。20歳の誕生日なんだからそりゃあご両親にとっても最高の日に決まってるからな」
「ばかぁ…もぉ…だからスーツとか着て気合い入れてたのかよォ…」
バカバカ言いながらオレの胸にくっついて泣いてる雅紀が可愛い。
スーツを着ていたのは雅紀のスーツを仕立てるだけじゃなかったんだ。だって仕立てるのに付き合うオレが着てる必要なんてねぇし。
むしろこっちに照準を合わせて着てたんだし。
「ほら。お父さんもお母さんも待ってるぞ。行こ。約束の時間通りに着いたんだ。オレ、すげぇだろ??」
「すげぇわ…もう、ばかぁ…」
ちょっとおどけながら助手席の雅紀の手を引いて玄関の前に立つと同時にドアが開いた。
わんわん!!わんわんわんわん!!
蒼翔が飛び出してくるとオレと雅紀の足の周りを吠えながらグルグルと走り続けていた。
「翔ちゃん、いらっしゃい。雅紀もおかえり」
「おう、翔くん。さすが時間通りだな!!」
「間に合ってよかったです」
「んだよー。知らなかったのは俺だけじゃんかよー」
まだぷんすこしている雅紀の手を引いて相葉家に上がらせてもらった。
リビングにはそれはそれは美味しそうなご馳走がズラリと並んでいた。
唐揚げ、春巻き、ポテサラ…。
どれも雅紀の大好物であり、雅紀がオレに作ってくれているものと全く同じ味でめちゃくちゃ美味しかった。
「めっちゃ美味いです!!お母さんと雅紀の作る味って同じなんすね!!」
「くふふふー。翔ちゃん、またここに付いてるよー」
「自分でやります!!」
「くふふふー」
いつものようにオレの口元に雅紀が指を伸ばしてくるから慌ててティッシュでゴソゴソと拭いた。
そんなオレたちの様子をお父さんもお母さんも嬉しそうに見ていてくれたんだ。
「翔くん。いつも誕生日には雅紀を家に帰してくれていてありがとう。高校3年のときも、去年の受験のときも、そして今日も…キミが雅紀をどれだけ大切に思ってくれているか…感謝しかないよ」
「ええ。そうね。誕生日やお正月とか大切な日にはいつもこの子を私たち親の元へ帰してくれてありがとうね」
「いえ。とんでもないです。お父さんとお母さんの御理解をいただかないとオレも雅紀と向き合って付き合うことなんて出来なかったですから…」
ご両親とオレのやりとりを聞きながら、不意に雅紀が大声で泣き出した。
文字通りに子どもみたいに泣きじゃくったんだ。
そんな雅紀を見てオレたちもちょっと泣いた。
なんの涙かは口に出さなくてもみんながちゃんと分かっていた。
そして嬉しそうにブンブンとシッポを振っている蒼翔もまた笑っているように見えたんだ。