「ダメだったわー。ハンバーグが乗ってないって」
「え?」
「よし、次だ次ー!次の店探すぞー」
「ええ?いいよ、ハンバーグなくても?」
「ダメなの。最初に雅紀が言ったんだぞ、ハンバーグが乗ってるのがいいって」
「いや、なくてもいいよ?」
ほーら。
また遠慮してるし。
そこで遠慮なんかしたらワガママじゃなくなるっつーの。それに負けず嫌いなオレの性格をなめてもらっちゃ困るんだよ。
絶対ぇ見つけてやるかんな!!!
それから洋食屋を見つけては店内に聞いてみたけど濃いめのケチャップの味付けでハンバーグが乗っているというのはなかなかない。
なければないほどに負けず嫌いの闘争心に火がつくっつーもんよ。
何軒も回っては気が向いた方向へ車を走らせた。
そして郊外の小さな町の昔ながらの喫茶店を見つけ、その店に入った。
女将さんが「ハンバーグは乗ってないのよ」と言うと、奥にいる大将が「さっき終わっちゃったランチタイム専用のハンバーグが残ってるだろ?それを乗せてやるよ!兄ちゃん、ツレを連れておいで!!」と粋な計らいをしてくれた。
「ありがとうございます!!!申し訳ないついでに、ツレは松葉杖なんです。席の場所を取ってしまうかも知れませんが、よろしくお願いします」
「何言ってんだ、早くそれを言えよ兄ちゃん、俺も手伝ってやるから!車はどこだ?」
古くからあるらしい優しくも丁寧な気遣いのあるこのお店の温かさを感じた。
店からオレと大将が出ていくと助手席の雅紀はそれこそ漫画みたいに目をまん丸にして驚いてたけど、オレと大将の話を聞くとそれはそれは嬉しそうににかっと笑った。
やっぱいいな、この笑顔。
「おぅ!若い兄ちゃん、いい顔して笑うな。気に入ったぜ!」
「ふははは。でしょ?いい顔しますでしょ?」
「は?へ?何言ってんの???」
雅紀の笑顔を褒められて有頂天になるオレを見て雅紀はキョトンとした。
「だってよ?大切なツレの誕生日なんだってこんな可愛いイケメンが言ったらさ、その願いを聞かねぇわけがいかねぇわ。なにせ女将の顔が乙女になっちまうんだぜ??」
「いやいや、そんな…////」
「は?翔ちゃんは可愛い顔してオネダリしたらだめっつってんだろ?ったく、油断も隙もねぇんだからな!!」
「ぶははははははは!!2人とも気に入ったわ!!松葉杖だと座敷は不便だろうから、奥のテーブル席を使えよ。トイレはすぐ近くだから」
「ありがとうございます」
「ありがとう!!」
元気な大将に席を用意してもらうと、オレたちはひと息ついた。