行ってきますと行ってらっしゃいをしてから玄関でキスをして別れる。そんな毎日が続いた。
課題が多かったりリハビリがキツかったりして風呂から出ると気絶するかのようにベッドに倒れ込む日もあれば、車椅子に座ったまま寝落ちする姿をよく見るようになってきた。
分かるよ。
健康なオレでさえ講義と課題はキツかったんだ。
それに加えて雅紀はリハビリもあれば晩御飯の支度もしなければならないんだ。
でも今日は休診日だ。
久しぶりに大学の空気も吸いたいし、ゼミでお世話になった先生にも会いたいし、なにより雅紀の車椅子を押して一緒に登校するという現実では有り得ないと思っていたことができるチャンスだ。
一緒に学食でご飯を食べるのも悪くない。
そんなことを思いながらいつものようにオレに腕枕をしている雅紀を起こそうと、雅紀の頬に手を当てた。
え?
熱い??
熱がある??
雅紀を起こすより先に体温計を雅紀のおでこに当てた。
38.9℃
けっこう高いな。
どうりでいつもより腕の中にいて温かいなと思ったら…。
ちゅ
雅紀のおでこにキスを落としてからお袋に連絡を入れた。
熱がある時に何を食わせればいいのか教えてくれと頼むと、お袋がすぐに来てくれることになった。
「翔は大丈夫なの?」
「ん。だいじょぶ。ぴんぴんしてるし、腹減ったから食欲もある」
「とりあえず雅紀くんの体を冷やしてあげなさい。冷やすものあるでしょ?」
「えー。缶ビールと小さい保冷剤かなぁ」
「その缶ビールを雅紀くんの脇の下に突っ込みなさい!保冷剤をおでこに乗せてあげてね!早くしなさいよ!!」
「はいっ!!!!」
半分お袋に叱られるようなテンションで指示を受けたオレは缶ビールを雅紀の脇の下に差し込み、保冷剤をおでこに乗せた。
つか、いやいや。
直じゃねぇわな。
改めてそれぞれをタオルで包んでからまた脇の下とおでこを冷やした。
ただの風邪だろうか。
疲労もあるんだろうか。
昨日愛し合ったあとにはちゃんと2人とも服を着てから寝たから冷えたことではなさそうだけど…。
あ、そうだ。
大学は休まないといけなくなるよな。
キミちゃんの連絡先を知らないことをこんなに悔やむ日が来るとはな。
登校時間に合わせてキミちゃんが迎えに来てくれるからそれはそれまで待てばいいか…。
なんて思いながらウイダーinゼリーを飲んでるとマンションのインターホンが鳴ってお袋の顔がカメラに写った。