みんなが帰ってから振り向くと、ソファーに座った雅紀が手を広げてオレを待ってる。
嬉しくて照れくさくなったオレはそんな雅紀の胸に飛び込んだ。
そっと髪を梳いてくれる大きな手はあったかい。
そのまま髪から頬を撫でてくれる手がオレの顎に添えられる。
クイッと上向きにされたオレは吸い寄せられるようにキスをした。
何度も何度も顔の角度を変えながらのキス。
こうして時間を気にすることなくキスが出来る幸せをオレは噛み締めていた。
ソファーの前に座り込んでいたオレは自然と膝立ちになり、雅紀の首に腕を絡めてしがみつくような姿勢になっていた。
そのままの姿勢でキスに夢中になっていたオレの胸ポケットから雅紀からもらったパスケースが落ちた。
その音に気づいた雅紀は唇を離してちょっとソレを拾って、というように手を伸ばしてオレにアピールしたんだ。
本当は見せたくなかったけど、そのパスケースを拾って雅紀の手に乗せると、パスケースの中の黄色い花畑の写真を見た雅紀の目にみるみるうちに涙がたまっていく。
そして瞬きをした瞬間にぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「やっぱりさ。オレたちって言えば黄色い花畑だろ?オオハンゴンソウじゃねぇけどさ…」
「もぅ。ばぁーか。泣かせんなよ」
「ふは。ほら。な?いいだろ?あの約束…忘れてねぇだろ?守ってよ?」
「ん。遠慮なく…翔ちゃんをください」
「おおせのままに」
「ね、ここじゃ狭いから連れてってよ」
そうだよな。
ソファーの上だと愛し合えねぇもんな。
よいしょって自分で移動した雅紀の車椅子をオレは押した。
翔さんから引き継いだ赤い車椅子。
おばあちゃんに翔さんの車椅子を譲って欲しいとお願いしに行った時にはおばあちゃんはめっちゃ泣いてた。
使ってくれることが嬉しいって泣いてくれてたんだ。
その車椅子を押して寝室に2人で入った。
ねぇ、翔さん。
翔さんも見ててよ。
オレと雅紀の頑張りを。
翔さんに負けないくらい頑張り続けるからさ。
昨日に笑われないように。
明日、もっと笑えるように。