手術室の前の待合室に戻るとお母さんの姿はそこには無かった。そしてまだ手術は行われている...。
お母さん!?
ちょっと慌てて廊下をウロウロしてると、驚いたことにお袋と一緒に診察室から出てきたんだ。
「お袋!?お母さん!?は!?なんで?」
「あら。翔。どうしたのそんなに慌てて」
「翔ちゃん...ごめんなさいね?」
「は?え!?なに?」
「いえね。華や潤くんから聞いてはいたもののなんだか心配になってね。ここへ来たのよ。そうしたら相葉さんがここで真っ青な顔をしてるじゃない?急いでナースステーションに飛んで行ったのよ」
「すぐに翔ちゃんのお母様だと分かったわ。そっくりなんですもん」
「ってか...お母さんの具合はいかがです?」
「点滴を打ってもらって少し楽になったみたいよ」
「お陰様で助かりました...」
お袋とお母さんはなんとなく波長が合うみたいで笑いあってるけど、オレは雅紀とのことをちゃんとお袋には言ってなかったような気がすることを思い出した。
あくまでも姉ちゃんや潤経由のザックリとして情報しか知らないはずだよな。
つか、今ここで雅紀とのことを言うのもどうかしてるよな。
「お袋...あの...さ...」
なんだか状況が飲み込めたんだかそうじゃないんだかな気持ちのままオレが口を開くと、お袋がバッサリ切り捨てた。
「いいわ。まだ状況が状況ですからね?雅紀くんの容態がしっかり安定してあなた達の覚悟が決まったら報告なさい。いいわね?あなたは雅紀くんよりも一回りも年上なのよ。その責任と覚悟を決めてから来なさい。そうは言ってもなにも頭から反対する気なんてサラサラないから安心しなさいよね?」
「はい」
「はい。この話はこれでおしまい。翔は明日から仕事でしょ?今日のところは面会時間ギリギリまでここにいるんだろうけど、ちゃんとマンションに帰ったら潤くんとご飯を食べること。いいわね」
「はい」
どこまでもどっしり構えてくれているお袋の言葉が妙にオレを勇気づけてくれているような気がした。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。
ふと、廊下から見える赤色のランプが消えた。
雅紀の手術が終わったことを無言でそのランプが知らせてくれたんだ。
「雅紀...」
「雅紀っ」
「雅紀くん...」
オレとお母さんとお袋は同時に立ち上がると、手術室から出てきたお父さんと岡田先生の顔を真っ直ぐに見た。
「なんとか金属板で骨を繋ぎ合わせたよ。ツギハギだらけになってしまってはいるけど、骨の洗浄の必要は無かったから感染症の問題は無さそうだ」
「あとは上手く骨が繋がることと、雅紀くん自身の治癒力とリハビリにかかってくると思います」
お父さんと岡田先生の言葉に安心したお母さんはその場に座りこんでしまった。
そんなお母さんをお袋とオレが慌てて支えると、オレたちの手からお母さんを受け取ったお父さんがひょいと抱きあげて奥の雅紀の部屋へ連れて行ったんだ。
「お父さん...すげぇな」
「ああ。院長はああいう人なんだよ」
お父さんの後ろ姿と岡田さんの言葉になんか知らないけど涙があふれた。