ベッドの上で泣き続ける雅紀。
床に座り込むオレ。
そんな状況の中、お母さんとお父さんが病室に戻ってきた。
小さくため息をついたお母さんはオレの手を引いて応接セットの椅子に座らせてくれた。
そしてお父さんは大きな封筒を手に持っていた。
封筒のサイズ感からしておそらくレントゲシ写真が入っているんだろう。
「雅紀。翔くん。聞いてくれるか」
「オレも聞いていていいんですか」
「当たり前だ。翔くんはいつまで経っても他人行儀なんだな。どうして私が君の診療所に連絡を入れたのか分かるだろ」
「...はい...ありがとうございます...」
お父さんは病室の片隅の応接セットに座り、真っ直ぐにオレを見た。
そして獣医師であるならレントゲンも分かるよなってそれを見せてくれた。
...粉砕骨折。
絵に書いたように粉々な足の骨。
膝下の骨は砕けていた。
でも膝から上は綺麗だった。
それは不幸中の幸いなんだろう。
「つまり、これは...」
「ああ。最悪の場合、車椅子の生活になるだろう」
「そんな...雅紀はこれから大学に通うのに...まだやりたいことがあるのに...」
「..ああ。そうだよ。そんなの私も分かっているつもりだよ!なんで雅紀なんだ!どうして雅紀だったんだ!そう思うよ!なんで受験が終わったその時に...!!」
バン!!
机を叩いてお父さんが叫んだ。
オレの診療所に向かっていなかったらこんなことにならなかったんだろうか。
オレがいなければ...こんなことに...。
いや、違う。
そうじゃない。
そう思うことが間違ってるはずだ。
そうだろ?翔さん...。
「お父さん。お母さん。お願いします。雅紀の支えにならせてください。オレに出来ることはなんでもします」
「例えば?」
「大学の近くにアパートを借ります」
「何言ってるんだ。君は新しくマンションに越したばかりだろ」
「構いません。賃貸物件ですから。勤務時間だって原チャリを使えば少し時間がかかるたけです」
「診療を終えたからといってすぐに帰れないはずだろ」
「そんなことは承知の上です」
「しかし...」
「お願いします。オレのワガママを認めてください」
「いや、そもそもまだ大学だって合格してるか分からないだろうに」
お父さんとオレが話を進めているのを黙って聞いていた雅紀が枕を床に落として話を止めた。
「出てってくれ。みんな...今は1人にして...」
「雅紀?どうした?」
「雅紀、オレは...」
「いいから!!!出てけ!...っつっ...」
「雅紀!」
「雅紀っ!待て!」
「お父さん!翔くんも!そんなに大きな声を出さないで!雅紀の気持ちにもなってみなさい!」
大声を出したことで苦痛に顔を歪める雅紀。
そんな雅紀の前に立ちはだかったお母さんは雅紀の視界にお父さんとオレが入らないようにしたんだ。