雅紀が3年生になる始業式の日。
それはオレの入学式の日でもあった。
さすがにスーツでチャリを漕ぐのはムズいから、雅紀の登校時間に間に合うように急いでスーツのオレは雅紀んちに迎えに行った。
「このまま高校まで送ったら大学に行くからさ。入学式は10時からだから心配すんな」
昨日、勉強を教えた後に雅紀にそう言って頭をポンポンすると、やっぱり雅紀はちょっと涙目になってオレの腰に腕を回して抱きついてきた。
そうだよな。
大学が始まり、講義もスタートすると今日までみたいに毎日のように会えなくなる。
オレの講義のスケジュールによって、そして雅紀の高校のスケジュールによって家庭教師のスケジュールも決まってくるから。
「まーさーき?」
「…」
「顔、見せろ?」
「…」
ちゅ。
何度も何度も唇を重ねてから別れた。
そして今朝。
制服の雅紀とスーツのオレが肩を並べて歩く。
ちょっと触れ合う手をがっしり捕まえて指を絡めて歩いた。
「翔ちゃんさ。スーツの時って髪をセットしてるよね」
「変かな?」
ふるふるふるふる
「香水も付けてるよね」
「変かな?」
ふるふるふるふる
オレの変化について雅紀が言っては首を振る。
ちょっとカッコつけたくてしていることを、雅紀は大人になったって思って寂しく思ってるのは分かってる。分かってるつもりだ。
学校に近づくにつれて見慣れた雅紀の仲間たちが雅紀に声をかけながら通り過ぎていく。
「雅紀。頑張れよ。オレも頑張るからさ。大丈夫だ。オレたちは大丈夫。だろ?」
「うん」
「ほら、松本や風間が待ってるぞ。オレはアイツらにお前を託した。それにこの制服にもな?」
「ん!!」
オレの制服を着て、オレのネクタイを締めている雅紀。
周りに誰もいなくなった瞬間を狙って、素早く雅紀にキスをした。
大丈夫だ。
オレたちは大丈夫だ。
雅紀にそう言いながら自分自身に言い聞かせていた。
…寂しいのはお前だけじゃないんだぞ。
そう言いたいのを必死にこらえながら。
だってそれを言うとお前は泣くだろ?