無料塾セミナー座談会「それぞれの立場から見た無料塾」 | 無料塾「中野よもぎ塾」のブログ

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東京・中野区で中学生対象の無料塾を開催しています。

7月23日(金)、なかのZEROにてセミナー「無料塾に今、できること」を開催いたしました。

その後半の座談会の模様をテキストにして、お届けいたします。

無料塾のことをより深くご理解いただけるヒントが詰まった内容となりましたので、ぜひお読みください!

 

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セミナー「無料塾に今、できること」

座談会:それぞれの立場から見た無料塾

 

7月23日に無料塾の活動を紹介するセミナーを開催しました。その中で座談会を行い、教育ジャーナリストのおおたとしまささんと、7月に学生主体の無料塾「なかの国際学院」を立ち上げた2人の学生、三井くん、駿くんの3人が、それぞれの立場から見た無料塾について熱く語り合いました。

 

(座談会参加者)

・おおたとしまささん…教育ジャーナリスト。リクルートから独立し、教育関連の取材・執筆を中心に活動、講演活動も行う。

 

・三井くん…なかの国際学院代表。高校1年生から中野よもぎ塾にサポーターとして参加。高2からカナダに留学し、2020年に帰国。大学の秋入学を目指し、絶賛受験勉強中。

 

・駿(しゅん)くん…なかの国際学院共同代表。中学2年生から2年間、中野よもぎ塾に通った卒業生で、現在都内の私立大学に通う大学1年生。

 

聞き手…大西桃子(中学生向けの無料塾「中野よもぎ塾」代表)

 

 

——まずは、皆さんがそれぞれ最初に抱いていた「無料塾」のイメージがどんなものだったのか、そしてかかわっていくうちにそのイメージがどのように変わったのか、教えていただけますか?

 

おおたとしまささん(以下、おおた) 4年ほど前に、ライターをしている大西さんが僕のところに取材にきてくれて、そこで中野よもぎ塾の話を聞きました。「なにそれ?!」と興味を持って、今度は僕が取材をさせてもらったのが最初のご縁になります。それから、ときどき授業を見学させてもらったり、イベントにお呼びいただいたりしています。

 

 よもぎ塾にお邪魔する前までの無料塾のイメージとしては、自習室のようなところにボランティアスタッフが何人かいて、生徒たちは質問があったら手を挙げて教えてもらうようなスタイルを予想していました。でも、実際に行ってみたら、完全にマンツーマン。大人のほうが多いくらいで、「こんなに手厚くやってるんだ!」というのが最初の驚きでした。

 さらに、そこにいるサポーター(学習指導ボランティアのこと)の様子を見ていると、通常プロではない人が教えるときにやりがちな、教えすぎてしまうとか、一生懸命になりすぎてしまうといったシーンがほとんどない。下手をしたらプロの先生以上に、上手に子どもと距離感をとれているな、というのがすごく印象的でした。

 

駿くん(以下、駿) 僕は3人兄弟で、兄は有料塾に通っていたんですが、僕や弟は経済的に厳しいというのがあって、先輩の紹介でよもぎ塾に通うことになりました。最初に先輩から話を聞いたときは、そもそも「無料塾」という言葉を初めて聞きましたし、「なんとなく怖いな」「どんな人がいるんだろう」「“支援を受けている”感じが強くあるのかな」と不安でした。

 でも、実際に行ってみると、同年代の子たちが大人のサポーターとわいわいがやがやしていて、すごく楽しそうな雰囲気だったんです。最初に教えてくれたサポーターさんもとても親切でやさしくて、「楽しい!」というのが第一印象でした。中学時代によもぎ塾に通ったことで、自分の知識の引き出しが増えたり、いろいろな物の見方ができるようになったりしたのかなと思っています。

 

三井くん(以下、三井) 僕は中学生の間は個別指導型の有料塾にずっと通っていました。中学3年生のときに、中野区社会福祉協議会が発行している「こどもほっとネットinなかの」というパンフレットが学校で配られて、そこによもぎ塾のことが書いてあったんです。「これ、何だろう?」と興味を持って、保存しておいて、高校生になってサポーターに申し込んだのが、よもぎ塾に行ったきっかけです。

 

 最初の予想としては、「塾」という名前が入っているので、僕が知っている塾なんだろうな、と。がっつり勉強して、みんな必死に進学を目指すというイメージでした。でも、実際入ったら、なかなかそういう高いレベルを目指すことが難しいという現状を知りました。

 カナダに留学中もZoomを使って教えたりして、今まで継続できているのは、やっぱり楽しいからだと思います。駿ともよもぎ塾で知り合いましたし、当時は生徒とも年が近かったので、一緒に遊びに行ったりする友達ができて、とても貴重な活動になっています。

 

——三井くんはサポーターとして来た最初の年に塾のサマーキャンプに参加して、はじめはまとわりつく中高生たちから「僕は大人側だから」、と逃げてたけど、いつの間にか1個上の卒業生たちにもみくちゃにされてたね(笑)。

 

三井 あれが分岐点だったのかなと(笑)。社会貢献活動として行っていた気持ちから、ただ楽しいから行く、という気持ちに変わったのがサマーキャンプでした。

 

おおた いろんな大人と出会える、サポーターの多様性も無料塾の特徴ですよね。最初に見学したときの印象を付け加えると、僕から見て、ボランティアの大人たちがカッコよかった! 普通の中学生が普通に学校に通って、普通に有料塾に通ってるだけではなかなか出会えない大人たちに、この子たちは接することができているんだなと思いました。

無料塾の生徒はみんないろんな事情を抱えていたりすると思いますが、こういう素敵な大人がまわりにいるってすごく心強いなと思いましたね。そのときに、無料塾というのは、単に勉強をするところ、進学のために学力をつけに行くだけのところではないんだ、と理解できました。要するに、有料塾を無料塾にしただけでは補いきれない大きな機能を持っているんだなというのが、大きな発見でしたね。

 

三井 有料塾も経験した自分が感じる違いとして、無料塾は「居場所」の側面が大きいと思います。無料塾の子どもたちは学習に課題を持っている子も多いんですが、そういう場合、勉強するより前に、まずは机に向かって集中しなさい、というところからなんですよね。そのなかで、講師と生徒が信頼関係を構築し、生徒の部活の状況や性格などを把握しながら、どんな指導がベストなのかを考えていく。なので、生徒と話す機会は、通常の有料塾よりも多いと思います。この距離の近さは、僕も最初に衝撃を受けたところでした。

 

 

◇教育格差の背景にある本質を理解し必要な支援を

 

——無料塾にはどんな力があると思いますか?

 

三井 すごく難しい質問だなと思ったんですが、今、コロナ禍で社会貢献活動をしたいと考える人がすごく増えているのを感じています。「なかの国際学院」という無料塾を立ち上げて、講師を募集し始めて今1カ月くらいなんですが、すでに17人の応募がありました。関心が高まって、講師の方が集まってくれるのはすごくいいことだなと思います。僕たちは無料塾はよもぎ塾しか経験していないので、外からの視点がいろいろ入ってくることで、新しい可能性も見つけていけたらなと考えています。

 

駿 さっき三井くんが言っていた、「居場所」という面では、生徒側からするとすごくありがたいことだと思うんですよね。無料塾に通う生徒たちは、家庭が経済的に厳しいなど、いろんなエピソードを持っています。それを共有して、同じような悩みを抱えている友達と話したり、サポーターの意見を聞いたりすることで、自分の心の引き出しが増えていく。自分の中の差別や偏見、先入観による恐れなどを払拭できるような環境があるので、それはすごく無料塾の力だと思います。

 また、よもぎ塾では毎年、八王子つばめ塾(2012年から活動する無料塾)と一緒にサマーキャンプに行くんですよ。そこで大人数での協調性や、薪割りや火起こしといった体験ができるなど、視野が広がる貴重な経験になっています。

 

おおた さきほど有料塾を単に無料にしただけでは足りない機能があるよ、というお話をしました。じゃあ、それは何なのか。

 まず前提として、世の中に経済格差があり、それが学力の格差につながっていて、さらにそれが経済格差を再生産する、ということが今、社会的に指摘されている問題点です。

 じゃあ、経済的に困っている家庭にお金だけ渡す、もしくは塾クーポンみたいなものを行政が配って、みんなが有料塾に通えるようになれば、教育上の条件はそろったことになるのかといったら、答えはノーなんですね。

 経済格差と学力格差の結びつきには、実はもう1ステップ体系があって、お金があるかないかというよりも、お金のある家庭においては、家庭の「文化資本」と言われるものが豊かである。だから結果として子どもの学力も変わってくるんです。

 

 では、その文化資本とは何なのか。例えば、ご両親や一緒に住む大人がどれだけ知識、教養的なものに興味があるか。そういう文化水準の象徴として言われているのが、家にある本の数ですね。ただあればいいというものではありませんが。

 もしくは、家族間の会話で交わされる語彙の数。「お風呂!」とか「ご飯!」といった単語だけで終わるのではなく、ちゃんと文章で客観的なやりとりをしているかどうかが影響しているという研究もあります。

 体験の面では、週末の過ごし方にも差が出てくるでしょう。また、将来に対する期待や「当たり前」の基準。親が四年制大学を卒業していたら、子どももそれが当たり前だと思うために、大学進学率が高くなります。

 こうした差をどう埋めていくかが本質的な問題です。それを単なる経済問題だととらえて、有料塾を無料化するような施策を安易にとってしまった場合は、「おまえら塾に通えているのにやっぱりテストの点数が低いのか」「君たちの努力不足のせいだよね」と自己責任にされかねません。

 そうではなく、きちんと本質的な背景に目を向けて、本当に困っている人に足りないものは何かを理解して、そこにサポートしていくことが必要です。家庭で足りない文化資本を補っているのは、僕がさっき言ったカッコいい大人たちとの触れ合いだったり、サマーキャンプの経験だったりするんだと思います。

 最近のはやりの言葉で言うならば、テストの点数や偏差値といった認知能力ではなく、意欲や協調性、創造力といった「非認知能力」を身に着ける機会を、よもぎ塾のような無料塾が提供している。それが無料塾の魅力じゃないかなと思います。

 

 

◇無料塾に通うコンプレックスをなくしたい

 

——現状の無料塾の課題、もっとこうなればいいのに、という意見はありますか?

 

三井 僕らはまだ始めたばかりですが、現段階ですごく課題に感じているのは、無料塾の認知度の低さです。数年前に子ども食堂が話題になって認知度が広がったと思うんですが、無料塾の認知度はまだまだ低いです。友達に「無料塾のボランティアをやっているんだよ」と話すときも、まずは無料塾の定義から説明しなければいけない。知名度が拡大すれば、それが支援の拡大にもつながると思います。

 

駿 僕は無料塾に通っている子どもたちのコンプレックスを払拭することと、生徒の意識の向上が必要だと思っています。僕がよもぎ塾に行く前に「支援されている感じがするのかな」と不安になったように、大人からかわいそうな目で見られたり、気を使われすぎたりすると、居場所がなくなるし、肩身の狭い思いをしてしまいます。

 僕もそうでしたが、気軽に無料塾に通ってるよと言えない状況が今はあるなと思っていて。それを解消するためにも、中身をよく知ってもらうこと、それこそ認知度を上げていくこと、通っている生徒が自信を持って言える環境をつくっていくことが必要だと思います。

よもぎ塾には3限目に、通常の個別指導ではなく、みんなで俳句を詠んだり、いろんな大人のゲストの方の話を聞いたりする機会があります。これは素晴らしい環境だと思っているので、もっと生徒たちも無料塾に通っていることを自信をもって言えるような意識を持ってほしいなと思います。

 

三井 僕たちが立ち上げた塾の名前は、「なかの国際学院」という名前で、他の無料塾とは少しイメージが違います。サポーターも子どもたちも、大きな声で言える名前がいいなと考えて、進学塾っぽいような、大学のような名前をつけました。

 

おおた 僕からは特に課題はないのですが、例えば小学生向けの塾があってもいいのかなという気はしますね。中学生になると高校受験というモチベーションがあると思うんですが、そういうニーズがまだない小学生の段階でも、早いうちからちょっと勉強やってみようね、という動機付けができる無料塾があってもいいのかなと思います。

 

——小学生だけでなく、いま高校生からの問い合わせもすごく多いんですよ。高校生向けの無料塾もあるんですが、まだ数が少ないのと、教えられる人も少ないという現状があってそこは私も課題を感じています。

 

駿 僕たちも最初、高校生も対象にしようかと考えたんですが、大学受験は責任重大ですし、教える難易度も高くなるために断念しました。大学受験を教えられる人はきちんと給料をもらって仕事として教えている場合が多いので、講師集めもなかなか難しいなと思っています。

 

 

◇「なかの国際学院」は、高校進学をメインで取り組む

 

——最後に、三井くんと駿くんが7月に立ち上げたばかりの「なかの国際学院」をどんな塾にしていきたいのか、教えてください。

 

駿 僕がよもぎ塾に通って感じたのは、さまざまな経験ができたり居場所ができたりするいい側面がある一方で、どうしても学力が向上しづらい側面もあるな、と。学力や学習意欲に合わせて、0.5歩ずつ上がっていくような指導の仕方をしないといけない子たちが多いんですが、それだと高いレベルで進学を希望する子どもたちには不十分だと感じています。

そのため、僕たちは進学をメインとした無料塾が必要なのかなと思って立ち上げました。そのうえで、僕たちは学生主体で運営することにこだわっています。その理由は、生徒との距離が近い分、打ち解けやすかったり、大人とのギャップを埋められたりするのかなと思ったからです。また、記憶がフレッシュな分、今の学習指導要領に沿った教え方ができるメリットがあると思っています。

 

三井 学力の面でいうと、僕も都立高校を受験したんですが、中学3年生の夏休みってめちゃくちゃハードだったんですよ。野球部に所属していて引退までは練習も試合もあるので、朝7時にむりやり塾をあけてもらって9時まで勉強して、9時から試合をしてボロボロに負けて、15時にユニフォームを着替えて塾に戻り、夜22時まで勉強する、みたいな本当にハードな1日もありました。

 そういう有料塾に比べると、リソースが少ない分、どうしても週1回、2回になってしまう無料塾では不十分なところがある。そこを僕たちは多くの学生講師の力でできるだけ手厚く、高水準な学習支援をしていきたいと思っています。あとはとにかく楽しくやりたいなと思っています。

 

おおた 学生主体で運営するメリットがある一方で、デメリットはどんなことだろう?

 

三井 やはり生徒さんの将来にかかわっていく責任の重い役目を担うなかで、信頼を得にくいという点は感じています。

 

駿 学生はそれぞれ予定があったりして、なかなか参加できないような状況にもしなれば、それは課題かなと思います。あとは、社会に出ている大人は一般常識やマナーがあると思いますし折り合いもつけられると思いますが、学生同士は距離が近い分、ケンカなど内部での問題は起きやすいのかなとは思います。

 

おおた いまお答えいただいたのは運営側のデメリットじゃないですか。生徒にとってのデメリットもおそらくあると思うんです。おふたりはまだ若いので、自分たちがこれからたくさん失敗をしていかないといけない。だけど、生徒の人生にかかわるので、失敗が許されない。でも、たぶん失敗する。その失敗から自分たちが学ぶという前提で、それをいかに生徒たちにとってのデメリットにしないか。老婆心ながら、そこは気になりました。メリットを前面に出す一方で、デメリットをバックアップするリソースも用意しておく必要があるだろうなと思います。

 

三井 今もたくさん大西さんに助けていただいていますが、よもぎ塾のサポーターさんやそのほかいろんな大人の方に頼らせていただきながら、頑張っていきたいと思います。

 

——そこは私たちが全力でバックアップさせていただきます!

学生主体の塾は、卒業など運営側の環境が変わるとやめてしまう場合が多いんです。そうすると、途中で放り出された生徒たちが困ってしまうので、継続していけるシステムを作ってもらいたいなと思っています。ふたりの塾立ち上げは、今年一番うれしいニュースでした!どんな塾になるのか、楽しみにしています。

おおたさん、三井くん、駿くん、今日はありがとうございました。

 

 

・おおたとしまささん

https://ameblo.jp/toshimasaota/

 

・なかの国際学院

https://nakanoacademy.themedia.jp/

 

・中野よもぎ塾

https://ameblo.jp/nakanoyomogi/

 

 
text by サポーターまりえ