今夜は星の降る夜。
だけど、今日は雷が鳴り響いて空を雲が覆ってる。
雨上がりの夜のベランダは思ってたよりずっと蒸し暑くて、立ってるだけでじんわりと汗が浮かぶ。
今夜会えるって言ってたのに、急に打ち合わせが入ったあの人はここにいない。
1人で見上げる空は俺の心と同じで、どんより曇ってどうしようもなく重い。
出会って何年になるんだろう。
少年だった俺達は、もう誰が見たって大人になってしまった。
「かずは本当に変わらない」ってあなたは言うけど、俺だってそれなりに歳をとってて。
身体の線は少し丸くなったし、目尻の皺やほうれい線だって目立つようになってきてる。
俺がそう言うと、それも可愛いとか言って顔じゅうにキスの雨を降らす。
あなたの愛情表現はいつも甘くて、天邪鬼な俺はどうしたらいいのか分からなくなって、可愛くない言葉を言ってしまう。
それなのに、そんな俺の気持ちも全部分かってるって顔でふにゃっと笑って「好きだよ、和也」って、優しいキスをまたくれるんだ。
そうなったらもう俺はなんにも言えなくなって、ただあなたのことを大好きだって気持ちが伝わるように見つめるしか出来なくて、あなたの腕の中で熱くなる身体に翻弄されていく。
触れ合う肌の滑らかさは、あの頃から変わらないね。
汗ばんだ背中を抱き寄せながら思うのは、この人を離したくないって切ないような気持ち。
何度も高みに昇りつめる俺を愛しそうに見つめる瞳。
荒々しく塞がれる唇と、揺れる2人の身体。
「好き....」
漏れでる声の隙間に、精一杯の気持ちをのせる。
嬉しそうに笑ったあなたは、いっそう激しく俺を揺らして好きだよって、耳元で囁いてくれる。
ぐったりとした俺を背中からぎゅっと抱きしめて、首すじに優しくキスをすると、くるりと俺をひっくり返して、その腕であなたの胸の中に抱き寄せられる。
汗で張りついた前髪の隙間から、額にもキス。
愛されてるんだって、感じさせてくれるね。
夜空を見上げながらいつの間にか昨日の夜を思い出して、あの人が恋しくて堪らなくなってた。
「さとし...好きだよ...」
呟いた声は掠れてた。
誰にも渡したくない。
ずっとそばに居たい。
俺だけを見てて欲しい。
ずっと愛してるって言って欲しい。
自分でも知らなかったこんな独占欲を、きっとさとしは気づいていて、それでも愛してくれてる。
重くてごめんね。
だけど、離れてなんかあげないよ。
カラリとベランダのガラス戸が開く音がして、赤ちゃんみたいな甘い香りがふわりと俺を包んだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「何してた?」
「流星群見てた」
「.....曇ってんな」
「うん」
優しく抱きしめられたまま、見えない流星に俺達の明日を願った。