相葉さん達が出て行くことが決まって、かずはシェアハウスをやめることにして。
出ていくことを決めた相葉さんは、かずとシェアハウスはどうするって話をしてた。
「和のしたいようにしていいんだよ。シェアハウスは辞めてもいいし、どうする?」
ダイニングテーブルに向き合って座った相葉さんとかずを、リビングからそっと見てた。
「辞める?」
優しい相葉さんの声にコクっと頷いた。
「和、シェアハウス辞める?」
もう一度、確かめるように聞いた相葉さんに、かずはコクリと頷いて、相葉さんは分かったって言って頷いた。
二人の間に、二人にしか分からない何かが流れてるみたいだった。
少しの沈黙の後、かずが小さな声で相葉さんに話した。
「まーくん...また、くる?」
「うん、来るよ」
「ん」
二人の声はフラットで、そこにまだ余裕のない二人がいた。
その後、俺を呼んだ相葉さんはじっと俺を見て言った。
「シェアハウスは辞める」
「はい」
「大野くん、シェアハウス辞めても和のことよろしくね」
「はい」
その顔が優しかったから、俺のことを信じてくれてるんだと感じて、かずを守っていこうと改めて思った。
色んな手続きの事とかは俺が調べて、必要なら相葉さんに協力してもらってシェアハウスを廃業することが決まった。
相葉さんたちは、その二日後にマンションに戻って行った。
荷造りを始めた相葉さんが布団とかは泊まりに来た時に使うから置いてっていいかな?って言って、置いていくことになって。
櫻井さんの部屋の荷物を片付けるって言うから、手伝おうかと思って覗いたら、ほとんど段ボールの中に入ったままで、この人どういう感覚してるんだろって思った。
なのに、どこから手をつけていいのか分からないって顔で段ボールの中に佇む櫻井さん。
「しょーちゃーん?」
って相葉さんが声をかけた時、玄関のチャイムがなった。
玄関を開けるとなんか芝居とかで見るようなクラッシックな服装の三人組。
「櫻井家執事の山本でございます。翔様の御荷物を運ばせていただきます。失礼致します」
90度のお辞儀をした山本さんと名乗ったでっかい人。
その後ろで同じようにお辞儀をしてるのはメイドのような服を着た女の人と少し小柄だけどキチッとした印象の男の人。
「は?え?ちょっと待って、何?」
パニクる俺を無視して、さっと靴を脱いだ三人はあっという間に階段へ向かった。
慌てて後ろをついて階段を上ると、恐ろしいほどの手際の良さであっという間に櫻井さんの部屋は空っぽになっていく。
「それでは翔様、相葉様失礼します」
また90度のお辞儀をした三人は、風のように去っていった。
ありがとありがとって言った櫻井さんは、ご飯の時に口のはしにソースをつけてる姿とは別人に見えた。
何となく慣れた様子の相葉さんと、呆然としてるかずと焦るだけだった俺。
なんかよく分かんないけど、変な人じゃなくて良かった。
その後もかずが落ち着いてたからホッとした。
相葉さんの部屋には机や布団、泊まるときのために二人分の少しの衣類が残った。
かずは、二日間相葉さんの後ろをついて回って、時々「和、ちょっと離れて」って言われたりするくらいだった。
相葉さんはかずが張り付くみたいに後ろについて回ってても櫻井さんとイチャイチャしてて、かずはその度に真っ赤になって、それでも後ろに立ってた。
二人が出て行く日の前の晩も相葉さんの後ろから離れなかったかず。
「おやすみ」
って、櫻井さんと部屋に入っていった相葉さん。
かずは相葉さんの部屋のドアをじっと見つめてしばらく動かずにいた。
寂しそうな横顔が綺麗で、ずっと見ていたいと思った。
「冷えるから、部屋行こう」
そっと背中に手を添えると大人しく歩き始めて、いつものようにひとつの布団で眠った。
朝起きたかずは、いつもと同じように朝ごはんを用意してた。
「じゃあ、行くね」って相葉さんが玄関で言った途端、かずはぎゅっと相葉さんに抱きついて「まーくん...まーくん」って相葉さんの名前を呼びながら泣きじゃくり始めて。
そんなかずをぎゅっと一度だけ抱きしめて、引きはがすようにした相葉さん。
「かずも幸せになんなよ」
って。
そのままもう玄関を出てた櫻井さんの方に走って行った。
かずは離れてく相葉さんに縋りつくように手を伸ばしたけど、その手はそのまま空をきった。
俺はなんにも言えなかったけど、寂しそうなかずのその左手をぎゅっと握って、二人が真っ赤な車に乗り込むのを黙って見ていた。
かずは車が見えなくなっても動かなかった。
戻りたくなかった家に戻って、それでもお母さんのレシピでみんなに美味しいご飯を作って、洗濯をして掃除をして、管理人としてしっかり働いていたかず。
この家に居ることに、きっと複雑な想いはあるんだろうけど、これからはここを温かい思い出の溢れる場所に二人でしていけたらいいなと思った。
その日は、二人でずっと一緒に過ごした。
ご飯の支度もお風呂も、眠るのも。
もうシェアハウスではない家で、お互いの温もりを感じながら過ごした。