少なすぎる家具。
だだっ広い部屋。
普段は座らないでかいソファーにぽつんと座るのは、俺の恋人。
手にはゲームのリモコン。
いつも座ってる床の上のクッションは、かずのお尻の形に潰れたままで。
「ただいま」
「あ...智......おかえりなさい」
ゲームをしてたはずの恋人は、すぐに顔を上げて俺を見た。
その少し硬い表情の顔を見て、またかと思う。
少ない正月休みにお互いに実家に行くのはいつもの事だ。
泊まってくることもある俺とは違って、かずはいつも日帰りで「俺の部屋なんかないんですから仕方ないでしょ」なんて言ってる。
だから俺は必ずかずの家に帰ってくる。
ほとんど一緒に暮らしてるようなもんで、一応自分のマンションもあるから、そっちにも普段は帰ったりするけど正月休みは二人で過ごす。
それがこの数年続いてる二人のルールだ。
貴重な連休はこんな時くらいしかないから、いつもならご機嫌でビール飲みながらゲームをしてるかずはニコニコしてて可愛くて、俺は吸い寄せられるみたいに隣に座ってキスしたりするんだ。
だけど、今日はちょっと違う。
「かず」
「なんですか」
「ただいま」
「さっきも聞きましたよ」
「うん。なんか心どっかに行ってるみたいな顔してるから」
「そんなことありませんよ」
「あるだろ」
ほら見ろ。
そんなことありませんって何だよその返事。
わかってんだよ。お前がそんなになってる理由なんて。
「新聞見た」
「.....そう」
かずの隣にどすんと座って見る俯いた横顔は、泣きそうにも見えて堪んなくてぎゅっと頭を抱き寄せた。
「わかってて言ったんだろ」
「うん」
「いつもだもんな」
「うん」
「相葉ちゃんはわかってるから、気にすんな」
「.....ん」
かずが紅白の後に受けたインタビューで言った一言が、ちょっとしたザワザワになってるのは俺の耳にも入った。
上に立ったなんて、本気で思ってたら言うわけがないのに。
そこだけを切り取られた発言はいつだって、かずに向かう。
こいつの愛情表現は本当にどっか歪んでるって言うか、自己犠牲的なとこがあって。
若い頃、嵐が誰かに嫌われるなら慣れてる自分が嫌われるのが良い。
みんなが嫌われるのは嫌だって言い張って、それは俺達だって同じだよって言ったのに、たった一人で悪役になった。
きつい事言うのも、自分が嫌われるのが一番良いって思ってるから、そうすることで他人からの批判を自分にだけ向けようとしてた。
今回だってそうだろ。
一昨年の紅白は、かずが言ってたように気づいたら死んでたような有様で。
色々あった中で一生懸命頑張った相葉ちゃんへの心ない言葉に、傷ついたのはかずもだった。
俺達だって同じ気持ちだった。
今年はかずがやるって決まって、色んな事はっきり言うかずは、細かいことまでしっかり確認してた。
絶対勝つんだって、ずっと言ってた。
あの優勝旗を持つんだって、相葉さんの分まで頑張るって、思ってたはずなんだ。
で。
結果、白組は優勝して。
かずは本当に嬉しそうにしてた。
俺達の前に立って、ニコニコ笑ってた。
だけど
だから
お前は思ったんだ。
この勝ちと、その前の負けを比べられるのは嫌だって。
相葉ちゃんのことを良く知らないような誰かに、この勝ちと負けを比べたりされたくない。
まして、相葉ちゃんを落とすようなこと言われたくないって。
だから、先に自分が言った。
かずになら相葉ちゃんは「何だよお前!!」って言えるし、まぁかずのことなんて俺以上に分かってるから、怒ったりすることも無いけど。
かずは他人に傷つけられるメンバーを見てられないんだ。
先手を打つことで、批判を自分の方に向けた。
かずが言うことで、記者の人たちはもう同じことは言わなくなるから。
そこまでわかってて言ったんだろう。
でも、それでもこの不器用なオトコは、相葉ちゃんを傷つけたって落ち込むんだ。
こんなふうにソファーの上で小さくなって、自分の膝を抱えて1日過ごしたんだろう。
「かず、好きだよ」
「知ってる」
「そっか」
「ん..... 」
小さな背中をトントンとあやすように叩きながら話す。
「風呂入ろうか」
「まだ用意してないよ」
「じゃあ、用意してくる」
「......ありがと」
ちらっと目線を上げて俺を見たその茶色い目は、ほんの少し潤んでて赤い目尻が綺麗だった。
今日はさ、相葉ちゃんにもらった入浴剤入れてゆっくり風呂に入ろう。
俺はあんまり浸かってらんないけど、足だけ入れてお前とゆっくり話すから。
それから飯食って、二人で寝よう。
ややこしくて、めんどくさいお前が好きだよ。