相葉さんの声でパッと振り返った櫻井さんは「どうした?」って声をかけてすぐに、マグカップをテーブルに置いて相葉さんのそばに行くと頭を抱き寄せた。
低くて甘い声でここで飲んでく?って聞いて、頭にキスしたりしてる。
相葉さんのあんな顔見たら、なんか止めちゃいけないっつーか、邪魔しちゃいけないような気がして声をかけられずにいた。
甘い声、甘い表情、柔らかい眼差しが相葉さんを包んでる。
少しずつ柔らかくなる相葉さんの空気が、俺にもわかった。
顔色も声も、前とは違う人みたいに優しい。
俺もあんな風にかずを支えられたらって思いながら二人を見てたら、相葉さんの腕が櫻井さんの背中に回る。
櫻井さんは何度もごめんって言いながら相葉さんの髪を頬を撫でて、エロいキスをしてる。
「………それ、頼むからかずの前ではやんないでよ」
黙ってようと思ったけど、やっぱり黙ってらんなくてぼそっと言った。
俺の声で俺がいることを思い出したのか、こっちを見る2人は思いっきりやっちゃったって顔してて。
「それ………自信ないなあ」
「………僕もないかも」
「チュウは部屋以外禁止‼︎」
「………はい」
「気をつけます」
顔を見合わせて笑う二人に笑いごとじゃねぇって言ったけど、たぶん全然響いてないよな。
とりあえずかずを風呂にって思って、かずーって呼びながらリビングに行った。
また、あのたんぽぽの絵を見てたかずがこっちを振り向いた。
俺の声に反応したのか、たまたまなのかはわからない。
「かず、風呂入れるから行こう」
「ん」
頷いたかずと風呂に行く途中、キッチンでまたキスしてる2人がいた。
「だから‼︎部屋以外チュウは禁止‼︎」
「あ」
「あ」
もー!なんだよって思いながら禁止って言ったら、イタズラが見つかった子どもみたいな顔をした相葉さんと、櫻井さん。
かずは耳まで真っ赤になった顔を手で隠してる。
「あんたらのチュウは変にエロいからやめてくれっ。目の毒すぎるっ」
「変にエロいって………」
「大野くんと和もしていいよ?」
「あっ………相葉さん!!」
「ねぇ?しょーちゃん」
「まあ、キスぐらいならな」
「櫻井さん!!」
「………」
「見たって減るものじゃないし」
「だな」
「………勘弁してくれ。かずほら、風呂行こう」
真っ赤になって俯いたままのかずの背中に手を置いて、ガックリしながら歩きだす。
なんか、何を言っても無駄な気がする。
相葉さんがエロいのは知ってたけど、甘くてエロいのはちょっと訳が違う。
しかも櫻井さんもエロいし、隠そうともしてないし。
かずは退院してから一度もそういう事は言わないし、そんな素振りも見せない。
俺が原稿を取り返そうとしてた時、あんなに抱いてって言ってたのは、やっぱり普通じゃなかったんだって思い知る。
本当はあの時抱いてしまいたかった。
かずが好きで堪らなくて、俺のもんだってみんなに言いたくて、かずの全部が欲しいって思ってたし、それならそうなって当たり前だとも思ってた。
ただ、あの時のかずはあの時の俺から見ても、普通じゃなかった。
すごく不安そうで、泣きそうな顔で笑ってた。
泣きそうな顔で俺に好きだって、抱いてって言ってた。
あんな顔のかずを、抱くことなんて出来なかった。
それが良かったのか、悪かったのかは今だってわかんねぇ。
何が正解かなんて、きっとずっとわかんねぇ。
だけど、あの時俺はかずを抱かなかった。
今だって抱きたいけど、今じゃないって思ってる。
今はキスだってまだちゃんとは出来なくて、眠ってるかずの髪や頬にキスするのが精一杯。
そこは焦るつもりないから、良いんだよ。
だけどさ、相葉さんと櫻井さんがこんなにベタ甘でエロいキスしてたら正直キツイ。
俺だってかずとキスしたいって思っちまう。
漏れそうになるため息を堪えて、あの2人我慢出来そうにないんだよなぁって思いながら、かずを風呂に連れていった。