ぎゅっと強く抱きしめられて、智の鼻が俺の髪に埋まるのを感じる。
すーっと息を吸い込む気配がして、突然、硬くなった智の背中。
「髪...洗ったのか」
「ん。.....シャワー浴びたから」
「そっか....」
剛ちゃんのところで浴びたシャワーを思い出して指先がまた震える。
「髪、いつもと違う匂いがする」
「剛ちゃんの...だからかな」
さとしは何も言わずに、また俺のことぎゅって抱きしめた。
俺は抱きしめられることしか出来なくて、どうしても抱きしめ返すことは出来なくて。
ただ、さとしの言葉を待ってた。
もう別れるって言われるかな。
俺に甘いさとしだけど、いくら何でも怒るよね。
剛ちゃんとシタって思ってるよね...。
だから何にも答えなくていいって言ったんでしょ?
抱かれてなんかないよ。
結局出来なかったから。
そう言えたらいいのに.....
俺はただ剛ちゃんの優しさに甘えて、剛ちゃんを傷つけただけだった。
残ったのは、酷い後悔ばっかり。
後悔することばっかりで、言い訳する気にもなれないくらいひどくて、さとしを見ることなんて出来なかった。
だから覚悟して
目をつぶってその瞬間を待った。
小さく息を吐いた音がして、ああいよいよなんだって思う。
やっぱり指が冷たくて震える。
心臓は破裂しそうなほど脈打って、耳の奥でドクドクと血の流れる音が聞こえるみたいだった。
「結婚しよう」
何を言われたのか分からなかった。
ううん。聞こえた。
聞こえたけど、耳がおかしくなったんだと思った。
「うそだ.....」
「本当だよ」
「............」
「かず、結婚しよう」
やっぱり耳が壊れたんだと思った。
だけど、優しく頬を包む手のひらが温かくて。
俺を見つめるさとしの目が優しくて。
「かず、結婚しようよ」
「..........」
「返事は?...ハイしか、聞かないけどな」
そう言って笑ったさとしは、今までで見た中で一番カッコいいさとしだった。