眠るかずの横で、ココアを飲みながらスケッチする。
かずの絵ばっかり増えていくスケッチブックは、俺の独占欲そのものみたいでちょっと恥ずい。
だけど、どんな瞬間のかずも残しておきたくて、描かずにいられないんだ。
少しずつ表情が出てきて、言葉が増えてきて、その度に変わっていくかず。
きっと、ずっと飽きることなんてないんだ。
かずより惹かれる存在には出会ったことないんだから。
何枚か描いて時計を見るともう5時で、ヤベッて思いながらご飯の準備を始める。
米を炊いて、味噌汁は豆腐とワカメと油揚げ。
ブリの照り焼きなら作ったことあるぞって思いながらブリをフライパンで焼く。
冷蔵庫に入ってた麺つゆに書いてある通りに、麺つゆと砂糖で味付けする。
それっぽくなったなって皿を出そうと振り返ったら、俺の真後ろにかずが立ってた。
「かず、起きたんか」
「..........」
「どうした?」
「.........」
「かず?」
「..........」
無反応で無表情。
ちょっと前に戻ったみたいに、無言のかず。
どうしたんだ?
なんか俺やったか?
話しかけてもなんにも返ってこなくて、なんか落ち込む。
怒ってる?
それともなんか悲しいのか?
無表情過ぎてわかんねぇ。
どうしたら良いのかわかんなくて困る。
とりあえずブリを皿に乗せようと食器棚の前に移動したら、無言のままかずも俺の後ろについてくる。
「かず?」
「...........」
どうかしたのかと思って話しかけても返事はしない。
しかも無表情。
後ろをついてくるかずを気にしながら皿を出してブリを乗せた。
ご飯と味噌汁とブリの照り焼き。
なんかちょっと寂しいけど、他に思いつかないんだから仕方ねぇ。
テーブルにご飯を並べる間も、ずっと無言で無表情のかずが俺の後ろに立ってた。
「かず、手洗おう」
「........」
ずっと無言のまま後ろをついてくるかずと洗面所に行って手を洗ってたら、玄関からドタバタと潤が入ってきた。
「ちょ、ねえっ!あのっ!合格!」
初めて聞くような興奮した声。
ボリュームもちょっとバカになってるのか、すげぇデカイ声で話してる。
てか、何言ってんのかわかんねぇ。
「え?なに?」
「だから、受かった!あの!あれ!あのっ」
「や、潤、ちょっと落ち着け」
「マジで!すげぇんだって!」
「わかったから、落ち着いて話せって」
興奮しきっちゃってんのか、もうしどろもどろな潤。
身振り手振りを交えて、すげぇ嬉しそうに話してんだけど、何言ってんのかマジでわかんねぇ。
「ほらちょっと深呼吸して、んで落ち着いて話してくれ」
すーはーって息をして、ちょっと落ち着いたんかな。
さっきより普通のボリュームで話し出した。
「あのさ!あの、オーディション!受けてたじゃん?あれ、受かった!」
「へ?」
「だから!オーディション合格したの!」
「マジか!!」
「うん!今日さ、大学出る時に電話かかってきて、合格しましたって言われて!もうめちゃくちゃ嬉しくてさ、電話切ったあとやったあ!って」
「マジか!すげぇ!」
「うん!」
「やったなぁ」
「受かるかもって思ってたけど、マジ嬉しい!ヤベェ!」
「良かったな」
「うん!」
「じゅんくん....おめでと.....」
「ニノ!ありがとな!」
嬉しそうで頬も紅潮してる潤。
最初、ビックリしちゃってなんか間抜けな声出ちゃったけど、俺も嬉しくて良かったなって言ったらかずもおめでとって言った。
とりあえずご飯にしようかって、ダイニングテーブルについて3人で食べ始める。
「え?これ大野さん作ったの?」
「おう。やっぱ、かずが作るのが良いな」
「まぁそうだけど、全然イケるよ。すげぇな、俺もマジで料理覚えないとな」
「あ?なんで?」
「なんか、なるべく早く東京出てこいって言われてんの」
「へ?」
「あ、今日、電話で言われた」
「あー、そうなのか」
「じゅん...くん....」
ぱくぱくとご飯を食べながら、潤がここを出て行く話をする。
かずは箸を止めて、無表情のままじっと潤を見てた。