深呼吸を繰り返して、ぎゅっと目を瞑った。
かずを想う気持ちで櫻井さんに負けたくない。
勝ち負けじゃないけど、同じように苦しむ人を好きになった男として、俺だけウジウジしてらんない。
櫻井さんは大人で、俺はまだまだガキみたいなんだろうけど、それでもかずを守りたい、支えたいから。
深く吸った息をゆっくり吐いて、トイレから出た。
もう電気の消えた洗面所で布巾を取って、台所に戻る。
潤はいなくて、俺はさっさと食器を拭いた。
乾いた食器を片付けながら、櫻井さんの背中を思い出す。
櫻井さんと同じようにはなれないけど、俺らしくかずを支えたい。
櫻井さんのことちゃんと見よう。
今まではちょっと変な人だと思ってたから、あんまりよく見てなかったし、話もちゃんと聞いてなかった。
ズレてるし、どこまで真面目なんだかよく分かんないし、正直言って頼りになんかしてなかった。
だけど、あの背中が違うって教えてくれた。
すぐにイチャついて、かずのことを後回しにするし、相葉さんのことしか見てないし、何なんだよこの人って思ってた。
でも、そうじゃなかった。
俺がかずを優先するように、櫻井さんは相葉さんを優先する。
俺が気づかなかっただけ。
櫻井さんは、どんな風に相葉さんに接してた?
どんな風にしたら、安心して頼ってもらえる?
ただ焦ってイライラしてたから、周りなんて見えてなかったんだ。
かずを好きな自分のことしか見てなかったから、かずの気持ちもわかんなくなった。
櫻井さんのこと、ちゃんと見よう。
櫻井さんと相葉さんのことも、考えよう。
かずを守るなら、かずを支えたいなら、自分の気持ちばっかりじゃダメなんだ。
ぐっと拳を握って、自分に気合を入れる。
ソファーで待ってるはずのかずを迎えに行ったら、そこはもぬけの殻で、小さなブランケットだけが残されてた。
「相葉さんのところか...」
小さく呟いた声は、びっくりするほど落ち着いてる。
俺の中で何かが変わった。
さっきまでと違う。
トントンと階段をのぼった先、かずは相葉さんの部屋の前で、さっきと同じように小さく踞ってた。