相葉さんは部屋の中に居て、かずの方を見てた。
きっと何か話しかけてくれたんだろうな。
俺はかずの横に膝をついて、かずの顔を見ながら話しかけた。
「かず、部屋行こう」
「..........」
かずは顔を膝の上に乗せてぼんやりしてた。
そんな仕草に、さっきまではどうしようもなく心が荒れていたけど、今は仕方ないって思える。
かずが頼れるのは相葉さんだけなんだ。
安心してそばにいられるのは相葉さんだけだから、こんなに相葉さんに執着してる。
でも、相葉さんにはかずを受け入れる余裕なんて無い。今は、相当参ってるはずだ。俺が見たって分かるくらいキツそうにしてるんだから。
「かず、少しは休まないと。相葉さんも少し休ませてあげよう」
「..........」
相葉さんの名前に、一瞬かずの目が揺れる。
でも答えることなく戻る。
そんな俺達の横を櫻井さんと相葉さんが通っていく。
櫻井さんは、少し低めの柔らかい声で話してて、その手は必ず相葉さんの身体に触れてる。
安心させるように柔らかく支えるように触れてる。
ちゃんと見ればわかるんだな。
この人が単にイチャついてたわけじゃないって、ちょっと見ただけでもわかった。
話す声も、潤や俺に話す時よりずっと優しくて、少しゆっくり話してるような気がする。
ご飯だって、さっきのかきこみ方は今までとは違ったし、早口でもっとパキっとした声だった。
櫻井さんにとって相葉さんは特別なんだって、全力で示してるみたいだ。
階段を降りてくふたりを見ながら、櫻井さんの強さを改めて知った。
小さく踞ったままのかず。
膝から廊下の冷たさが伝わってきて、かずが冷えるなって思って、俺の部屋から掛け布団を取りに行った。
布団を持って廊下に戻ると、かずは相葉さんの部屋の入り口を少しだけ入った壁際に移動してて、そこでさっきと同じように小さくなって座ってる。
そっと手に触れると冷たくて、早く温めてやらないとって思う。
「かず。冷えるから俺と布団の中いよう」
声をかけてから、かずの後ろに入って座る。
ひとつの布団を2人で被るようにして、俺の膝の間にかずを座らせて背中から抱き込んだ。
抱きしめたかずの身体も冷えていて、少しでも温まるようにと思いながらぎゅっと抱きしめた。
かずの身体から力は抜けなくて冷たいままだったけど、嫌がる素振りは見せなかった。
しばらくして相葉さんが櫻井さんにもたれかかって部屋に戻ってきた。
布団にくるまる俺とかずを見て、相葉さんが少し眉を顰めた。
かずの前で立ち止まって話しかける。
「自分の部屋に行かないの?」
「………行かない。まーくんと寝る」
「僕はしょーちゃんと寝るよ?」
「………ここでいい」
「………和」
やっぱり返事をするけど、従わないかず。
なんでなんだろう。
それほど、相葉さんを求めてるってことなのか?
かずも周りが見えてないってことなのか?
わかんねぇ。
俺にはわかんないことばっかりで、相葉さんに負担をかけないようにしたくてもどうして良いのかわかんない。
知らないうちに口が尖ってて、慌てて直す。
櫻井さんはただ穏やかに相葉さんを見ていて、今度は何も言わなかった。
相葉さんを見た後に、かずをじっと見つめて相葉さんへと視線を戻してた。
今までもきっとこんなふうに見てくれてたんだよな。
俺が気づかなかっただけなんだ。
また櫻井さんと自分の差を見せつけられたみたいで少し苦しいけど、気づかなかったままより良いんだって、フーッと息を吐いた。
「かず、寒くないか?」
「..........」
やっぱりかずは返事をしなくて、相葉さんの部屋は小さな電気を残して、暗くなった。