かずが話したってだけで単純な俺は嬉しくて、潤の分の食器まで調子に乗って洗って。
泡を流して布巾で拭こうと思ったら、洗い桶の中に布巾を落としちゃって、洗面所に新しいのを取りに行った。
廊下に出たら洗面所に灯りが点いてて、あれ?俺電気消すの忘れたかなって思いながら近づく。
洗面所の入り口の手前で立ちすくんだ。
俯く櫻井さんの背中が見えて。
「くっそ.....」
途切れ途切れに嗚咽する声に混じって聞こえた小さい呟き。
相葉さんのシャツを握りしめて震える肩。
頭、ぶん殴られるみたいに衝撃が走った。
耳の奥がキーーーーンとする。
目眩がしそうで、思いっきり息を吸いこんだ。
俺は.....
何を見てたんだろう。
この人はこんなに傷ついてるのに、俺と同じように自分の無力さを悔しがってるのに。
相葉さんの前では1ミリもそんなところは見せずに、穏やかに相葉さんを包み込んでる。
俺は、何してた?
かずが苦しんで、苦しんで、苦しすぎて薬を飲んで。
俺に反応しないかずを見て、何してた?
何がイライラするだよ。
何が愛してるだよ。
俺なんか、なんにも分かっちゃいないんだ。
自分の感情に流されてばっかりで、相手の気持ちを考えるのだって自分の都合で。
苦しくて、悔しくて、感情を抑えることも出来ないのに焦るって何様だよ。
焦ってる場合じゃないだろ?
支えるって決めたんだろ。
松にいにも、相葉さんにも教えてもらっただろ?
頭ん中でみんなの言葉と、かずの泣きそうな顔と櫻井さんの震える背中がぐるぐる回る。
苦しむ相葉さんを、全力で支える櫻井さん。
こんなに悔やみながら、それでも穏やかに笑う櫻井さん。
心底、自分が情けなかった。
同じように苦しむ人を好きになって
同じように支えたいと思って
だけど、俺と櫻井さんには天と地ほど差があって。
俺はかずに信じてもらうことすら出来てない。
いや、信じてくれたかずを傷つけて、こんなことになった。
好きだった。
すごい大事にしてた。
そう思ってた。
初めからコイツだって思って、なんでかなんて分かんないけど、かずは大切な存在だった。
全然笑わなくても、返事が冷たくても、気持ちは変わらなかった。
初めて見た日の寂しそうな顔が忘れられなくて、笑った顔が見たいってそればっかりおもってた。
少しずつ距離が縮まって、かずが笑ってくれるようになって、油断してたんだ。
俺のせいで傷ついて、俺を見なくなって。
だけど、かずが俺を見なくても、手を握りかえしてくれなくても、かずを好きな気持ちは変わらなかった。
なんにも返ってこなくてもいい。
俺以外の人にしか、返事をしなくてもいい。
それでも、かずが好きだ。
こんなにイライラするのも、焦るのも、悔しいのも、かずを好きだから。
どんなかずでもいいんだ。
だけど、笑ってて欲しい。
幸せになって欲しい。
かずが許してくれるなら、俺がそばにいたい。
胸が苦しかった。
目の奥が熱くて、視界が滲んだ。
どうしたら櫻井さんみたいに強くなれるんだろう。
どうしたらかずを支えていけるんだろう。
櫻井さんが顔を上げそうになったから、咄嗟にトイレに逃げこんだ。
櫻井さんのあの背中を見てたのを、知られちゃいけない気がして。
どんな顔していいのかも分かんなくて。
櫻井さんの足音が消えた後も、しばらく動くことが出来なかった。