揺れるかずの腰に手を回して支える。
相葉さんが行ってしまった階段の方を見てるのを、覗き込むようにして話しかけた。
「先に髪乾かそうな。冷えて風邪ひいたらマズイからな」
「...........」
返事は無かったけど、嫌がる素振りは無かったから居間のソファーに座らせて、脱衣場からドライヤーを持ってくる。
ソファーに座ったかずは、やっぱり少し揺れながら窓の外を見てるように見えた。
「かず、お待たせ。海、綺麗だよな。キラキラしてる」
「...........」
「ドライヤーするから、熱かったら言えよ」
答えないかずを相手に、話しかけ続ける。
ドライヤーの熱風でかずの柔らかい髪を乾かす。
金色の髪はナイロンみたいな手触りで、濡れていると驚くほどふにゃふにゃだ。
少しずつ髪を指で梳きながら乾かしていく。
「少し髪がパサパサしてるな。クリーム塗っとくか」
「...........」
返事はしないけど、ソファーに座ったままでいてくれる事が嬉しいと思う。
ちょっと待っててくれって言って、かずのいつも使ってたクリームを取ってきてうすく手に伸ばしてかずの生乾きの髪に塗っていく。
いつものかずの髪の少し甘い香りがして、ホッとする。
思わず後ろからぎゅっと抱きしめた。
「好きだ.....」
思わずこぼれた言葉はかずに届いたんだろうか?
ずっと動いていた手が、一瞬止まった。
そっとかずから腕を離して髪を乾かしだすと、止まっていたかずの手が動き出した。
ボーッと海を見てるかずはそのままで、おにぎりをソファーの前のローテーブルに置いた。
時々ゆらゆら揺れるから、ダイニングテーブルの椅子だと落ちそうな気がして怖かったから、ソファーで食べさせることにした。
「全部相葉さんと俺で握ったんだぞ。こっち側は相葉さんで、こっちは俺が握ったんだからな。どれ食う?」
「...........」
「具はなんか色々だけど、どれがどれなのか分かんなくなっちゃったな」
「...........」
かずは返事をしなかったけど、俺の渡した俺が作ったおにぎりを大人しく食べてくれた。
その後自分で手を伸ばしたのは相葉さんのおにぎりで、ふわりと一瞬だけ笑ったかず。
「まーくんの味がする」
って、それだけ言ってその後は黙々とおにぎりを食べてた。
2つのおにぎりを完食して、少し眠そうなかずに病院でもらった薬を1回分渡して目の前で飲むのを確認する。
俺は3個食べて、残りはラップをかけてダイニングテーブルの上に置いた。
少しうとうとしてるかずにブランケットを取ってこようと思った時、ジーンズのポケットでスマホが鳴って画面を見たら松にいだったから、なんだよって思いながら通話にする。
「お前!なにやってんだよ!」
いきなり大音量の松にいの声にびっくりして、電源切りそうになるのを堪えて耳にあてる。
ソファーの上のかずを振り返ったら、手の動きが一瞬止まったのが見えた。