「かず....」
「...........」
「かず」
「は.....い」
みるみる青ざめていくかず。
「かず、お前俺のこと、嫌いになろうとしたのか?」
怯えさせちゃいけないってわかるけど、俺の口から出るのは冷えきった声。
固まったように動かないかず。
違うんだ。
お前を怖がらせたいわけじゃない。
怯えさせたいわけじゃない。
人一倍怖がりなお前を、泣かさないことが俺の1番大事な事だった。
大きい音にも声にもビビって、小さな音にもビビって、ちょっとした変化にだって、お前の頭ってどうなってんだ?って思うくらい敏感で。
いつもいつも、周りを気にしては自分のこと後回しにして、その分自分の感情を抑えつけて、夜中俺の背中に引っついて泣いてんの。
ずっと、必死で寝たふりしてた。
俺が起きたらお前は泣けなくなるんだと思って。
だけど、そんな風に泣かせたくないから、泣かせなくてすむように、俺なりに頑張ってきたんだよ。
だけど、お前が俺から離れようとしたなんて。
俺を、お前の心から追い出そうとしたなんて。
そんなのは許さない。
泣いたって、許さない。
ポロポロっとこぼれたかずの涙を、ほほに手を当てて親指で拭う。
その俺の指を、ぼんやりした目で追いかけるかず。
泣かせたいわけじゃない。
傷つけたいわけじゃない。
ただお前が好きなんだ。
「かず.....お前は、俺のだろ?勝手に嫌いになるとか有り得ないだろ?」
「さと..........」
「好きだ」
「さとし...」
「好きだ」
「.....うん」
「好きだ!」
「.....っく......う...ん」
「お前は?....俺のこと好きだろ?」
「すき....さとしが好き.....好きなのっ......」
ボロボロに泣きながら、ドンッと抱きついてきたかず。
やっと捕まえた。
「かず.......」
「ごめん.....なさい..」
「もう.....いいよ」
「うん」
かずの首筋に鼻を埋めて、目一杯息を吸いこむ。
かずの甘くて爽やかな匂いが俺の中に入って、俺の中を満たしていく。
「ありがとな」
「俺こそ、ありがと」
ぎゅっと抱きしめた体温が、俺たちは2人でひとつだって教えてくれてるみたいで、今度は俺が泣きそうになった。