昨晩パリで伝統あるThetre des Champ-Elysees にてドミトリー・マスレエフのリサイタルが開かれた。これまで何度かパリでのリサイタルはあったけれど、美術館付属のコンサートホールだったり、比較的新しいコンサートホールばかりで、チケット代も30ユーロ以内に抑えられていた。なので今回のTheatre des champ-elyseesのようなパリの伝統的な形式のシアターで彼のリサイタルを聴くのは珍しい(前回のコンサートもウィーン学友協会だったけど)。チケット代もアリーナ席は手が届かず、2階席からの視聴となった。チケットを入手する際も現代の平等な席配置とは大きく異なり、(ヨーロッパの階級社会を反映して)バスみたいな補助席だったり、楕円形など様々なボックス席があって席を決めるのに苦労した。とはいえ、昨晩のリサイタルは1、2階席はほぼ満席だった上に多くの観客のスタンディング・オベーションで終了と大成功。さて、曲目は…

 

Medtner Sonata Op.38 No.1 Reminiscence

Mendelssorn-Rachmaninoff Midnight Summer Dream 
Balakirev  Nocturne No. 6
Glinka  Nocturne in F minor « La séparation »
Mussorgsky Night on Bald Mountain

Interval‐---‐-------------

Glinka-Balakirev The lark

Rachmaninoff Variations on a theme by Corellii

Cui  Serenade Op. 40
Liszt  Spanish Rhapsody

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Marcello-Bach adagio

Kapustin Concert Etude No.1: Prelude  

 

 メトネルのソナタから始めて、自分の世界に一気に観客を連れて行こうという意欲は買う。が、運悪くフランスのコンサートは30分前まで会場が開かない、つまり夜の寒空の中待たされた観客か、30分前まで入場できないことを知ってギリギリに到着する観客のどちらかに分かれるため、最初の曲では咳こむ人が多発、曲が終わるまで観客がマスレエフの世界に入り込めなかったことは否めない。でも、2曲目の真夏の世の夢からは本領発揮で、バラキレフとグリンカのノクターン2曲はマスレエフの雰囲気にピッタリの選曲で初めて聞くのに懐かしいような感覚。そして前半最後の禿山の一夜。オーケストラで聞き慣れているので、ピアノ版は知らなかったのだが、マスレエフは「自身の中に秘めたるマグマがある」からか、死をイメージさせるメロディー、例えば グレゴリオ聖歌怒りの日』(Dies Irae)を引用した曲が得意。禿山の一夜にも通じるものがあってピアノ版も面白いと教えてくれた。

 

 インターバル後の後半はグリンカのひばりから。マスレエフのYoutubeビデオにも収録(下記参照)、寂しげで哀愁が漂うが鳴き声のアレンジが可愛らしい曲。ラフマニノフのコレルリ の主題による変奏曲 は(アヒルの子のように)最初に聞いたのがマスレエフの演奏だったせいもあってこの曲は彼が弾かないと納得しない。Youtubeより生演奏の方が音色の幅があるのでずっと素敵。CuiのSerenadeもこの順番にぴったりの曲。少し民族音楽っぽいところが魅力的。そして最後を飾るリストのスペイン狂詩曲は「もしかして重いかな」と思ったが、洗練された感じのする削ぎ落した演奏で曲としての盛り上がりと短めの間が上手く噛み合ってフィニッシュ。一階席の観客の多くがスタンディング・オベーションという、冷静な観客が多いパリのリサイタルでこれまで見たことが無い結果が目の前で展開された。アンコールを求める手拍子まで出現。それに応えるマルチェロ‐バッハのアダージョはゆっくりとしたテンポで聴かせる演奏、2曲目のカプースチンは粋に元気よく…大満足のリサイタルで国境越えの甲斐があった。元々プログラムの編成はうまい人だけれど、今回のロシア重視プログラム、バランスも順番もほぼ完ぺきかも。

 

 リサイタル終了後、マスレエフがフォイヤーに登場し、新発売のCDなどにサインを貰えるよう計らってくれた。私としては10回ぐらい参加しているマスレエフのコンサートで初めて立派なパンフレットが販売されたので10ユーロという金額(薄いのに!)にも関わらず感激して買ってしまったところ、全編フランス語で愕然。でも、お陰でパンフレットにサインが貰えて嬉しい。今やGoogle Lensというアプリでイメージから翻訳も可能なので、後で翻訳しようと思う➝翻訳は最後に少し付けました。

 

Theatre des champ-elysees 撮影禁止だったのでピンボケもご勘弁を

 

ご本人も満足だったのでは。

1,2階ほぼ満席で多くがスタンディングオベーション

 

初の立派なパンフレット サイン入り

 

太字部分は前回のシテ・デラ・ムジークの演奏会に対する仏音楽評論家Alain Lompechの絶賛について。ラフマニノフのソナタop.36は、ルガンスキ―同様熟達しており、(このレベルの人は)他にはまれにしかいない。最後にマスレエフのことを「神々に祝福された芸術家」と締めている。

 

グリンカ&バラキレフ『ひばり』