パンデミックの真っ最中のコンサートが延期され2年以上経てようやく実現した。コロナでもしも将来海外旅行に全然行けなくなったらどうしよう、という不安に駆られていたころにチケットの発売が開始されたので「このチャンスを逃すわけには行かない」と必死だった。で、普段はユーロスターの駅がある街のコンサートにしか行かないのだが (ユーロスターはチケットを早く買えば新幹線の半額位)、ヨーロッパ内だと飛行機もユーロスターと値段は変わらないことに気付いた。と言うわけで、めったに訪れることの無いウィーンへ。

   延期で曲目が「ラフマニノフピアノ協奏曲3番」から「プロコフィエフピアノ協奏曲3番」に変更されたが後者はチャイコン以来弾いてないので何と8年ぶりの演奏。今回の方がテンポはゆっくり目で余裕の演奏。勿論コンクール時の一杯一杯な様子は微塵もなかった。いつも通りビシッと決めるべきところは決め、叙情的なところは自然の光景が浮かんでくる演奏。コンクールの時より左手の音が響いて、右手の音との組み合わせが面白く聞こえた。実は、私にとってコンクールのマスレエフの演奏が初めて聴くプロコフィエフ3番だった。それまではクラシック音楽ファンでもないし現代音楽はどこがいいのかとんと分からなかった。だから、プロコ3番はマスレエフの演奏が私のデフォルトになっている。

 

オーケストラ:Philharmonische Orchester Győr
ソリスト: Dmitry Masleev
指揮: Martin Rajna
曲目:
M. Glinka: Ruslan and Lyudmila - Overture
S. Prokofiev: Piano Concerto No. 3 in C major, Op. 26
B. Bartók: Concerto for Orchestra, BB 123

 

  今回のコンサートは色々あった、まず、席が悪すぎ。チケット購入時点で自分がコロナに罹ったら行けなくなる可能性もあったので、2階の安価な席にしたら(とはいえいつもと同様の30ポンド未満だけど)、楽友協会の2階は普通の建物の3階分の高さで私の席からは指揮者がやっと見えるくらい。何とピアノ自体が見えない。ただ2階の側面はガラガラだったのでコンサート開始後かぶり付きに移動し事なきを得た。でも、グランドピアノの屋根の角度のせいでいつもの爆音が聞これない!それに前回はステージから2、3列目だったので、あたかもオケの一員のようにピアニストの圧力/オーラを直接浴びたけれど今回は離れすぎでそれを感じなかったのも残念。

  次に、今回でマスレエフのオケとの共演を聴くのは3回目なのだが、いくつか共通の現象が起こっていることに気付いた。カドガンホールでも今回も、第一楽章が終わって観客が思わず拍手。「決まったー!」と言いたくなるカッコイイ終わり方だったからか、それとも「この人メチャクチャ上手い」と、驚かれたからなのかは不明。アンコールを期待してコンクールと同様に観客から手拍子が起こりかけた。そして、何よりマスレエフの演奏が終わって休憩に入ると両方のコンサートで観客激減。特に今回2階席は私が座った席まわりに10人近くいたのだが、殆んどが最後のバルトークを聴かずに帰ってしまった。つられて私も「後はどうでも良くなってしまい」席を立った。この後隣に座っていた音大生二人連れと出待ちの出口で再会してコンサートの感想を話した。二人も同様で「未だかつてコンサートを途中で退席したこと無いんだけど」と言う。「何で誰も居なくなっちゃったんだろう?」と訊いたら「ソリストの素晴らしい演奏の後に、多分このオケだけの演奏続けて聴くのが辛いからじゃないか。聞いたことないハンガリーのオケだし」との答え。私はコンクールの時のオケは「プロコフィエフ弾き馴れているから上手いのかと思った」というと、「チャイコンのオケはそもそもレベルが高い。ナショナルフラッグ背負ってるし。あのレベルじゃないとマスレエフと釣り合わない」と言う。チャイコンの演奏を聞き慣れると他のオケは音が小さかったり、外したり下手さが目立ってイライラする。「ベルリンの時は学生オケと共演でチャイコフスキーピアノ協奏曲1番弾いたんだけどソリストに押されっぱなしでオケが完全に萎縮してた。次の曲から別人のように元気になって」と私。いずれにしても、2曲目でコンサートのピークを迎えてしまうので、最後の曲が蛇足扱い。いいんだか悪いんだか。という具合に新しい発見はあったが、どうしてロシア以外で一流オケから共演依頼が来ないかなぁ…あんなに凄いのに...

  ウィーンの音大生(指揮)とパリ音楽院を受験したばかり(ピアニスト)の二人組と初めて出待ちして判ったのは、オケと共演の場合ピアニストに会うのは困難だということ。ソロリサイタルだと楽屋に行けたりするのだが、カドガンホールでも関係者以外立入禁止だった。今後は共演の場合は直ぐ帰ることにする。

 残念ながら今回はアンコール「真夏の夜の夢」(メンデルスゾーン-ラフマニノフ)のときでさえ写真を撮っている人が見えなかったので写真もなし。後で出待ちした時撮ればいい、と思ったのにそれも空振り。1時間以上外で待たされ寒いので30分位中に入ったけど…実はソリスト専用の出口が有ったらしいとフェイスブックで聞いたが後の祭。ミュージシャン・オケ専用出口で待ってしまったらしい。

   マスレエフの写真じゃないけど(すいません...)楽友協会の写真をいくつか添付する。

 

 

演奏開始前には8割近く埋まった

作曲家の胸像がある廊下
底冷えでも天気は快晴