昨晩バービカンホールで聴いたマキシム・ヴェンゲーロフ&ポリーナ・オセティンスカヤのリサイタルが素晴らしく、目が覚めてもまだ強烈な印象が残っているので、早々にブログに残しておこうと思う。以前、ヴェンゲーロフ推しの友人とオーケストラとの共演を同じくバービカンホールで観て、その安定感と観客の気持ちを高揚させる音楽に「彼の演奏なら絶対に行って後悔はしない」と確信。でも、今回のリサイタルは友人が既にチケットを購入したと聞いた夏の段階で自分が購入可能な範囲の席が全て売切だったので、半ば諦めていた。ところが、公演の1週間前になって突然多くの天井桟敷席が購入可能に変わっていたので、2日前にチケットを入手。友人の話によると「2階席を買ってたんだけれど直前になってバービカンホールが1階席に移してくれた」とのこと。良い席への移動を断る人はいない。つまり、埋まらない高額の席にもっと安価な席を予約していた人たちを移動して、天井桟敷席に沢山空きを作り再度売り出した模様。ロンドンのシアターは時にこうした粋な計らいで、一階席は満席、天井桟敷の安い席は学生用にと、兎も角ホールが満席になるよう努力することがある。演奏者にとっても見渡せる一階席が満席の方が気分が乗るし、高額チケットが購入不可能な人にとっては、天井桟敷でもコンサートや演劇が見られるのは嬉しい限り。しかも、バービカンのギャラリー席/天井桟敷は初めてだったのだが、ロイヤルオペラハウスのようにぎゅう詰めに上にスツールのような座り心地が悪い椅子とは大違いで、下階の席と同じ心地良い椅子、余裕のある配置で席に座った状態のままその前を人が通れて各列を移動できるし、前の席との間に段差があるので舞台もよく見える。バービカンでは行くたびに「建築的な設計能力の高さ」を思い知らされて唸る。

 

 さて、リサイタルの演目は以下の通り。

Clara Schumann Three Romances for violin and piano
1. Andante molto
2. Allegretto
3. Leidenschaftlich schnell
Johannes Brahms Scherzo from F-A-E Sonata
Robert Schumann Violin Sonata No 3 in A minor
1. Ziemlich langsam - lebhaft
2. Intermezzo: Bewegt, doch nicht zu schnell
3. Scherzo: Lebhaft
4. Finale. Markirtes, ziemlich lebhaftes Tempo

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Sergei Prokofiev Five Melodies
1. Andante
2. Lento, ma non troppo
3. Animato, ma non allegro
4. Allegretto leggero e scherzando
5. Andante non troppo
Sergei Prokofiev Violin Sonata No 2
1. Moderato
2. Scherzo: Presto
3. Andante
4. Allegro con brio

 

 知らない曲ばかりだったのは私だけではなく、昨晩の観客は拍手するタイミングを思いっきり間違えていた。次の曲のテンポが遅くて如何にも第二楽章とか、あるいはテンポが早くて如何にも第三楽章とかだったりするので「あ、間違えた…」と気付く有様。1階席の友人によるとヴェンゲーロフは観客が拍手のタイミングを間違えると右手で「今じゃないよ」とリアクションを起こしていたらしい。しかし、圧巻だったのはこの後のアンコール3曲でラフマニノフ作曲のヴォーカリーズ、プロコフィエフ作曲のマーチ、そして最後はラフマニノフ作曲のパガニーニの主題による狂詩曲 。ヴェンゲーロフによればこの選曲は「ラフマニノフ生誕150年にちなんだもの」で、最初に彼が「アンコールはヴォーカリーズ」と言ったとき、この曲を知る多くの観客がどよめいた。が、演奏が始まると物凄い緊張感のある静寂で観客が息を呑んで聴いているのがわかった。案の定期待を上回る、どこか遠くに連れて行かれたような、懐かしいような、寂しいような、雪が降り続くようなピアノとともにズシーンと心に響く演奏。最後に弓が発する一音が信じられないほど長く「どうか終わらないで」と思わせた。一生忘れられないレベルの演奏だった。

 

 友人によればヴェンゲーロフがアンコールを3曲弾くのは珍しいとのこと。ほぼ満席(約2000人)の観客の果てしない静寂に気分が乗ったのかも。リサイタルは多くの観客のスタンディングオベーションで幕を降ろした。

 

 

 

 

 

ラフマニノフのヴォーカリーズはヴォイスでも、オーケストラでも、ピアノでも、バイオリンでもどれを聴いても素晴らしいと思う。ピアニストのマスレエフも弾いてくれないかしら…