インディーズ・フィルムを紹介してくれる地元のキャッスル・シネマでドキュメンタリー映画『Hello, Bookstore』(2022, A. B. Zax監督)を観た。米マサチューセッツ州レノックスで40年営業する街の本屋さん、その名は文字通りThe Bookstore。コロナ禍で店を閉めつつも顧客が訪れると彼らの要望に応えて本を探し、カード決済+店外の椅子の上で本を渡す書店主(Matt Tannenbaum)の淡々とした毎日を描く。所々に挟まれる彼の独白によれば、海軍を除隊しニューヨークの有名な書店に勤めた後、30歳になる10日前にこの書店を開いたという。元ヒッピーの彼は結婚後11年で奥さんを亡くし、残された娘さん二人を育てたとか。本屋の片隅にある小さな3席のみのワインバーはナチスドイツから逃れ90歳で亡くなったワイン好きのチェコ出身の友人を追悼するもの。店には座り心地の良さそうな椅子がいくつも置いてあるので、本屋というより図書館かコミュニティーセンターのよう。ロンドンのブルームズベリーにある古本屋Judd Booksも丁度ドア横にレジがありいつも誰かが座っているけれど、お客のための椅子を置くスペースは無く、至る所に本が山積みされているので、映画の本屋さんの方が長居できると思う。店頭で走る鉄道模型は子供を惹きつけるし、本の飾り方、絵や額縁や大量の手書きメモが素朴なのに何となくおしゃれに見えるのも👍。

 

 タイトルの「Hello, Bookstore」は店主のマットが1日に何度も電話を取る度に最初に発する言葉である。たった一人雇っている若い店員には「紙のインボイスが雪崩を起こしちゃって…アプリとかソフトを使えば良いのに…」とぼやかれる。店の一日の売り上げがパンデミック後一週間の売り上げに等しくなり(つまり7分の1)、経営不振に陥ったときはクラウドファンディングで街の人々がこの書店を支えてくれる。店主が笑顔なのは「毎日好きなことばかりしてるから。本を読んだり、読んだ本を顧客に紹介したり。好きじゃないことをしているのはお金の受け渡しの時だけ」だそうだ。

 

 お客さんたちと店主との応対を見ているだけなのに、彼らの人柄を反映しているのか、ほのぼのして爽やかな気持ちになる映画。ガーディアン誌*が言う様にマーク・ライランスあたりが主演で映画化されてもおかしくない。パンデミック前に観た『マイ・ブックショップ』(2017)という映画を思い出した。『Hello, Bookstore』は書店の中に自分も居るような気持ちになれるので映画館で観る方がお勧めだけれど、Youtubeで日本語の予告編が見当たらないので日本での上映予定はないのかもしれない。

 

*Clarke, C. (2023) "Hello, Bookstore review – indie bookshop owner’s story is the perfect page-turner." The Gurdian, 28 June 2023, accessed on 3 July 2023.

 

 英語版予告編