英国帰国のエールフランス便で観た映画の中で印象に残っているのは『The Bookshop/マイ・ブックショップ』(2017)。今回の帰国で実家の本を少しだけ整理したせいもある。ペネロペ・フィッツジェラルドによる原作は、ブッカー賞候補にもなったという。1959年イギリス南部海岸沿いにある架空の町が舞台。戦争未亡人のフローレンス(エミリー・モーティマー)は、保守的で本屋が一軒もない見知らぬ町で、夫との長年の夢だった本屋を開業する。「ビジネス未経験の女性だから」と、銀行からの融資がなかなか受けられなかったが、ようやく開業できたときが、彼女は最も幸せだった… その後、アシスタントとして、小学生のクリスティンを雇う羽目になったり、40年引きこもっている男やもめの地元の名士エドモンド(ビル・ナイ)と知り合い、徐々に仲間を増やしていく。一方で、町の権力者が本屋の建物に目をつけ、「あの場所にアートセンターを開きたい」と言い出してから、事態は悪い方向へと展開。それでも、フローレンスは物議を醸したウラジーミル・ナボコフ著「ロリータ」を250冊注文し、保守的なコミュニティーに果敢に挑戦するが…

 

 原作通りの話なのかもしれないけれど、結末が衝撃的でビター。エドモンドとフローレンスの会話が微妙で、繊細なばかりにこの展開は予想外で痛快さを通り越して、過激すぎでは。スペイン人監督のイザベル・コイシェはもう少し何とかできなかったのか?それと、フローレンスがよそ者だったから特に排他的な面が強調されたのかもしれないが、この町のコミュニティー全体が保守的なだけではなく意地悪。本屋がなかったからとはいえ、フローレンスはどうしてよりによって馴染みのないこの土地を選んだのか、ちょっと無理だったのではと思う。

 

 本屋というものは本一冊ごとの作者がある意味全身全霊をかけて書き上げたものの集積だが、後世に残るような本はその中でもごく一部に限られる。一方で、たくさん本を読んだ人が亡くなると折角身につけた知識や知恵が故人とともにいっぺんに消え去ってしまう、という虚しさ。こんなに本を集めて何になったのだろう?実家に残る数千冊の本を見るたびに、暫し呆然とする。