BBC iPlayerでポーランド出身のアニエスカ・ホランド監督の『Mr Jones/赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019) を観賞。スターリンの政策によって大飢餓に陥ったウクライナを舞台とし、主演がジェームス・ノートンだったので長らく気になっていた映画。ジェームス・ノートンと言えば 『Nowhere Special』(2021)のシングルファーザー役を観て以来、その演技力や慎み深い立振舞で若手では特に一目置く俳優だ。この映画では、ジャーナリストとしてモスクワに行き、ウクライナに潜入し人為的大飢饉ホロドモールの状況を世界に暴く役柄。ホロドモールとはスターリン時代のソ連が外貨獲得のために穀倉地帯であるウクライナから農産物を過剰に輸出した結果生じた大飢饉*のこと。さて、あらすじは…

 

 1933年、ウェールズ出身のジャーナリスト、ガレス・ジョーンズ (ジェームス・ノートン) はウクライナを訪れ、そこで飢饉の恐怖を体験。彼はどこへ行っても、大惨事に関するニュースが広まるのを防ごうと躍起になったソビエト秘密警察に遭遇する。スターリンによる強制的な農業の集団化は、悲惨さと破滅をもたらす。この政策は大量虐殺に等しいものだった…(IMDbより翻訳)

 

 主題は政治権力によるマスメディアの腐敗、そして政府が発表する虚偽情報への警鐘だろう。100年近く昔の話とは思えない、現状に繋がるストーリーだった。世界があの頃の状況に近づきつつあることの現れでもある。映画には小説『動物農場』でスターリンをリーダーの豚として描いているジョージ・オーウェルも登場する。ただ、史実では『動物農場』の出版は1945年でジョーンズがモスクワに行った年から10年以上離れているので、脚色しすぎの感がある。要はオーウェル作品『動物農場』『1984』は現在必読の書だということだろう(英語版の本は買ったけれどまだ読んでない...(-_-;)。またジョーンズの親族によれば、彼が人肉を食べたり、秘密警察に追われた事実はないという。とはいえ、エンディングで現れるジョーンズが「消された」事実とある登場人物の「ピューリッツアー賞受賞」と「未だその取り消しはない」という言葉には、遣り切れなさが残る。映画自体はロシアの侵攻前に制作されたものだが、ウクライナとロシアの因縁を知るには欠かせない映画だと思う。

 

*出典はEleminist.comより

 

予告編 日本語版
 

たまたまRussel Squareの近くでジョージ・オーウェルのブルー・プラークを発見