フランソワ・オゾン監督の『Everything Went Fine/すべてうまくいきますように』(2021)をドルストンのリオ・シネマで観た。安楽死が主題の映画のせいか、どこの映画館でも小スクリーンの上に上映期間も短く、キャッスル・シネマでは見損ねてしまった。リオ・シネマでも始め「観客は今のところ貴方一人よ」と言われて驚いたのだが、始まる直前に二人加わったので、安心して観ることができた。たった一人やや怪しげな地下30席の小スクリーンで観るのは気が進まなかったので。オゾン監督の映画は危険なプロット』(2012)婚約者の友人』(2016)など、ドキドキ感を伴うサスペンスが面白いのだが、この映画も何故か途中から予定調和の展開からずれて、まるでサスペンス映画のように目が離せなくなる。あらすじは…

 

 85歳のアンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳梗塞の発作を起こした時、娘のエマヌエール(ソフィー・マルソー) は病院に飛んでいく。半身不随になり衰弱した父から、尊厳死の介添を頼まれたエマヌエールは苦痛に満ちた決断を迫られる。しかし、一体どうしたら自分の父親のそんな要求を名誉に思うことができるだろうか?(IMDbより翻訳)

 

 映画を観ながら様々な場面で何度も自分がエマヌエールの立場だったらどうするか、考えてしまった。この物語では父の要求に従い二人の娘たちがあらゆる困難に見舞われながらも粛々と実行に移していくのが予想外。余りに娘たちの精神的負担が大きすぎるので、もし私が彼女の立場だったら恐らく拒否すると思う。というのも、途中からアンドレはリハビリの成果でかなり回復し、椅子に座れるようになるし、孫の演奏会に出席し、レストランでの食事ができるなど、ある程度人生を楽しめるようになっていたから。何も死に急ぐことはないのに、と次第に映画の中で彼の尊厳死に反対する人々と同じ目線になっていた。

 

 実は母の年上の友人が「尊厳死が認められているスイスに行ってあの世に行こう」と真剣に調べていた話を聞いていたので、映画は実行に移したらどうなるかを目の当たりにした感じだった。フランスでは尊厳死は認められていないので、誰かが警察に通報したら自殺幇助罪で逮捕され、5年の実刑か7万5000ユーロ(約1千万円)の罰金となるとか。父親を失った上にこの余波は相当厳しい。「少しは残される者たちのことも考えてよ」と彼に文句を言いたくなる。映画では弁護士も交えて準備を進めるけれど、それでもハラハラさせられるし、結末がどう転ぶかは最後までわからないところがミソ。

 

日本語版がまだないので英語版の予告編

 

映画の中でエマヌエールはブラームスのピアノソナタ3番F minor Op.5のCDを聴く