Amazon Primeでこの映画を観る前にパンデミック映画『コンテイジョン』(2011)も観たのだが、その内容があまりにCovid-19によるパンデミックに似通っていて気持ちが悪く落ち込んでしまった。感染源が中国ではなく香港から、死亡率が高く発症から死亡までの時間が1, 2日と極端に短い以外は、咳が出る症状やマスクが常に必要になること、街が空っぽになる状況などほぼ同じ。それで、現状とは大幅に違う世界に行ける映画を観たいと思ったところ、仏アニメーションの『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』は主題が北極探検であることを発見。絵柄も綺麗だし評価も高いので、気軽に観始めたところアニメーションだとは思えないほどリアルで本格的な探検物で物語にもグイグイ引き込まれた。子供向けとあるけれど大人も十分楽しめる。あらすじは…

 

   1882年、ロシア皇帝の時代のサンクトペテルブルク。まもなく15歳になる伯爵令嬢サシャにとって心のヒーローは著名な探検家である祖父オルキン。でもオルキンは数年前にロシア皇帝の援助で北極への探検に出たまま未だ帰ってこない。探索船もオルキンと彼が乗った最新鋭の砕氷船ダバイ号を見つけられずにいる。家族の名誉が失われつつある中、サシャの父はローマ大使への道筋を付けるために、サシャが社交界デビューの日に皇帝の甥である王子に彼女を見初めて貰えるよう取り計らう。ところが、当日祖父の部屋で見つけた航路計画は探索船のそれとは全く異なる事に気づいたサシャは、王子に再探索を懇願するが、かえって王子の機嫌を損ねその場を去られてしまう。父から酷くなじられたサシャは翌朝祖父とダバイ号を発見するべく家出して汽車で港へと旅立つが…

 

 何しろ画面の絵が綺麗。まるで往年のロンドン地下鉄のポスターに使われた版画のよう。日本のアニメと違い線画ではないけれど、色遣いが洒落ている。建物を入れた街の風景などこのままポスターにできるのではないか、と思わせる。そして何より北極の景色。氷の色や空の色が本物の北極の写真と同じように素晴らしい。ブリザードの場面ではスキーで経験した吹雪の中の情景を思い出した。おまけにこの骨太なストーリー展開。前にも書いたように、今や王子様はお姫様にとって役立たずどころか、害になる存在。この映画ではサシャが自力で祖父を助けに行こうとする自立へのキッカケを与えている。また主人公が初めは貴族のお姫様なのだが、芋の皮剥きから船乗りのロープノットまで飲み込みが早い上に勇敢で、実に「出来る」。映画を観た女の子たちにも勇気やインスピレーションを与えるだろう。映画を観終わった後に主人公と一緒に北極への旅に出て戻ってきたような満足感を覚える。エンディングで映される写真のようなスティルイメージもさり気なく素敵。

 

 朝日新聞によると(下記参照のこと)フランス人のレミ・シャイエ監督は『ブレンダンとケルズの秘密』で助監督を務めた方とか。あのアニメーショングループの作品は今後も見逃せない。