日曜日に学生から頼まれた大学への推薦状も提出し、昨日連続講義も終わってやっと緊急の仕事から解放されたので、BBC IPlayerで前から気になっていた『ブレンダンとケルズの秘密/The Secret of Kells』(2009, トム・ムーア&ノラ・トゥーミー共同監督)を観た。なんと放映期限が「本日夜9時まで」とあり、ギリギリ。「ヨーロッパのアニメーションらしい」程度の予備知識しか無かったけれど、昔仏アニメーション『ベルヴィル・ランデブー』(2002)を観た時、ディズニー系のアニメーションや日本のアニメと全く違った手法に衝撃を受けた経験があるので、見逃せないと思っていた。実はムーア&トゥーミー監督はアイルランド出身。日本のアニメで自然描写が素晴らしいのは、「日本の自然に特別な美しさ(特に色遣い)があるから」であるのと同様にアイルランドのアニメも彼の地の自然、特に緑と白の遣い方が特徴的。ラグビーやサッカーW杯のユニフォームが緑なのもその影響だろう。そして何より物語の主題であるアイルランドの国宝「ケルズの書」。9世紀に作られた聖書の写本だとか。その独特な美しい文様や色遣いを元にこのアニメーションを作っている。ケルムスコット・マナー出版ウィリアム・モリス著『ユートピアだより/News from Nowhere』も美しい本だけれど、「ケルズの書」のような伝統があった上で製作されたのか、と納得した。さて、あらすじは…

 

 9世紀のアイルランド。少年ブレンダンは大変な責任に直面し、困難な課題に挑戦することに。スコットランドから訪れた写本家が持ち込んだ有名な未完の聖書「ケルズの書」を完成させなければならないのだ。しかも、その間に彼の伯父が司祭を務める僧院はヴァイキングの攻撃を受ける。森の妖精アシュリンの力を借りながら、ブレンダンは一つ一つ困難を克服し、なんとかケルズの書を守っていくのだった…

 

  BBCはこの映画に特別感を与えるためか、声優は本来の英語ではなく(アイルランドかスコットランドの)ゲール語を話し英語字幕で放映。「一体どこの国の言葉なのだろう?」と不思議でならなかった。その上、まるで絵本が動いているかのような手描きらしい画面が観る者を惹きつける。森の匂いまで漂ってきそうな感じ。設定的には村の周りに巨大な壁を建造したりしていて、どこか日本のアニメ「進撃の巨人」みたいなところもあるのだけれど、リアルさがなくて描写方法が詩的なので、ファンタジー色が強まっている。しかもどこか懐かしさを感じさせるのは万国共通の何かがあるからかも。透視画法(パースペクティブ)を一切使わない上に、アニメとは違った、ケルズの書からインスピレーションを受けたのか、2次元を強調した不思議な3次元表現が魔法の世界に居るような印象を与える。観客を現実とはかけ離れた世界に連れて行ってくれるという意味で、凄いアニメーションだと思う。因みにノラ・トゥーミー監督は『ザ・ブレッドウィナー』(2017)の監督。一方のトム・ムーア監督作品『海のうた/Song of the Sea』(2014)もBBC IPlayerにあるので、近いうちに観るつもり。