Amazon Primeで観た2本目の映画はアイルランドのアニメーション『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014、トム・ムーア監督)。BBC iPlayerで観ようとしたら、何と声優たちはアイルランド・ゲール語で話す上に英語の字幕が無いので、全然分からないから諦めた。『ブレンダンとケルズの秘密』には英語字幕があったのに。イギリスが多民族国家であることを思い知らされた出来事だった。それでもインターネット・ムービー・データベース[IMDb]で8.1と高評価なのでPrimeで視聴。民話かお伽話の絵本がそのまま動き始めたような感じで、観た後ジーンと心に沁みる。何よりアイルランド民謡?か北欧民謡?の音階を使った主題歌。懐かしさを感じさせて素晴らしい。日本で言えば変身譚の夕鶴とかぐや姫の要素が混ざったようなストーリーで、子供にも分かりやすく主人公たちに深く共感できるだろう。あらすじは…

 

 ベンと妹のシアーシャはお父さんと一緒に小島の灯台に住んでいる。お母さんは6年前シアーシャの出産後、居なくなってしまった。口が利けないシアーシャはある日海の生き物たちから崇められるような特別な力を発揮し、普通の女の子ではないことが判明する。シアーシャが海に還ってしまうことを心配したお祖母さんは兄妹を都会にある彼女の家に連れていく。都会の暮らしが辛い二人はお父さんの居る灯台に帰ろうと逃げ出すものの、シアーシャがフクロウに攫われる。ベンは彼女を見つけるために海に向かいながら現代社会に囚われていた妖精たちを解き放つ…

 

 この映画の鍵はネタバレになるけれど、お母さんとシアーシャが海の妖精セルキーである、ということ。セルキーはアザラシの妖精でアザラシの皮(コート)を被っていて、人間がその皮を取り上げて妻にするという民話があるとか。人魚とも関係があり、発端はアザラシのコートを着ていた先住民かイヌイットの女性を見たことという説もあるらしい。映画もどこか黒澤明 監督の名作『デルス・ウザーラ』(1975)を思い起こさせるところがある。

 

 驚いたのは設定が現代だったこと。犬の散歩で自由に伸びるリードを使っているので初めから時代が示されたいるのだが、ベンがヘッドフォンを使ったりするまで全然気が付かなかった。また、人物描写が実にリアル。ベンは妹を可愛がるようお母さんに頼まれたにも関わらず、シアーシャに八つ当たりして苛める。お母さんを亡くして塞いでいるお父さんもシアーシャのことは溺愛しているので、半分はヤキモチ。半分はお母さんが居なくなって家が暗いので、ベンは感情的にささくれているのだ。でも、シアーシャが弱って死にそうになると自分がしてきたことをひどく後悔するという具合。主人公が全然良い子ではないのがかえって新鮮。ラストでシアーシャを海に連れていこうとするお母さんにお父さんが語りかける場面が心に残る。

 

予告編よりもミュージックビデオの方が雄弁