A-7 感染
リュウグウノツカイがノルウェー近海で目撃されたのは、2158年の春だった。
西欧ではリュウグウノツカイは、その巨大さと形態からドラゴン伝説の起源とされ神聖視されている。
そんな魚が悠々と泳いでる姿に、目撃した漁師は本日の釣果を祈り静かに悠然と泳ぐ姿を見送っていた。
目撃情報は、すぐに漁協に伝わり、ノルウェー王立海洋研究機関が保護に向かった。
それほど、リュウグウノツカイは珍しいものである。そして今回の個体は20m弱と今まで発見された個体の中でも最大級と思われたからである。
しかし、その翌日、数十匹の群れが、ノルウェーのベルゲンの港に漂着したのだった。ベルゲン市民総出で助けようとしたのだった。救えた個体は5匹。それらはすぐに、研究機関の水槽に保護された。
このニュースが日本に伝わったのは、一週間後であった。
ベルゲン市民に変調が現れたのは、リュウグウノツカイが発見されてから10日後であった。
症状は神経機能が遮断されるものであり、48時間ほどで全機能がストップしてしまうものであった。
この症例は、瞬く間にベルゲン市内に広がり同症例者は数十名に至り、死者は二十名を超えた。
ノルウェー王国は直ぐに、ベルゲン市を封鎖し、NWHO(新国際保健機構)への協力をあおった。
しかし、封鎖の効果は少なく、徐々に感染地区が拡大し、リュウグウノツカイ発見から1か月程で死亡者は百名を超える事態を迎えることとなった。
B-7 渚の戯れ
AMU 「もう、KOTAったら、遊びすぎじゃないの。」
AMU 「ねぇ、また図書室に行きましょうよ。お父さんたちの記録も、おじいさんの記録もみたいし。」
KOTA 「今日の波は勢いがあるし、温かいぞ。調べ物は明日、明日。こっちに来なよ。」
AMU 「もう、KOTAったら。」
確かに、青く澄み渡る海岸で、遊ばない手はない。久々の晴れ間でもあるし。
KOTA 「ほぅら、気持ちいいだろう。」
AMU 「でも、なんでこの星には季節があるのかしら。必要なことなの?」
KOTA 「僕にもよくわからないけど・・・僕らにストレスをためさせないため?とか、おふくろは言っていたな。笑いながら。」
AMU 「四季があると、いろいろな服が着れるし。」
A-8 ウイルスの確認
椎名からの情報で、NWHOはノルウェーが保護したリュウグウノツカイからCOVID-145と類似したウィルスを発見。様々な動物実験により、感染力、シナプスの破壊能力は145型からさらに強力ととなっていることが判明。COVID-158 RYUGU-Ⅱと命名された。
椎名はNWHOに協力を求められて、急遽ノルウェーに向かうこととなった。
現地にてNWHOの実証データを見た椎名は驚愕するとともに、絶望感を味わうこととなった。
「既に、海猫たちに感染している。制空権を握られてしまった。」
NWHOのDr.Antonyは「まだ、感染の拡大を防ぐ方法はあります。宿主が数日で死んでしまうため遺体の処分を的確にすれば・・・」
「いや、このウィルスは、シナプスを持つもの全てに感染する可能性がある。私たちに防ぐ方法はない。しかし、君が言う通り、海猫たちも感染後数日で死んでしまうだろう。その分、猶予期間があるという事か。NWHOでの、ワクチンの開発を急いでいることだし。
進捗はどうなっている?」
「いまのところ、弱毒化。不活化がうまくいかず、道険しといったところです。」
そして、2か月後、世界各地にリュウグウノツカイが目撃されるようになった。
B-8 この星の形
AMU 「私たちから見たら、この広大な空間。二人だけの物。ぜいたくすぎるわよね。」
KOTA 「そう、たった今はたった二人。でも、また四人になるけど・・・贅沢には違いない。」
AMU 「大変だったろうな、これを作り上げるのは。」
KOTA 「そりゃぁ、人類を守るために作られた希望の星だから。でも、おやじも詳しいことは知らないって言っていた。絶望はネガティヴな気持ちを増幅するから、僕らには情報が伝えられていないんだ。」
AMU 「初代の二人にも教えていないの?」
KOTA 「最初の二人は、赤ちゃんだったらしい。育て上げたのはロボットたち。」
AMU 「いつも私たちを支えてるロボットたちの事?」
KOTA 「そう、ロボット君たちだよ。いったい何気いるのかわからないけど、彼ら?彼女ら?たちだ。」
AMU 「1000年にもわたって・・・確かに彼らは不死だから。」
KOTA 「このプロジェクトには彼らが必要だったんだ。だから、彼らは自己修復機能を備えていているらしいよ。」
AMU 「そうよね。まだ、私たちは1/3の道のりにいるだけだから。」
KOTA 「もしかすると、彼らに問いかければメモリーに残っているかもしれないけど、おやじは。知らなくていいことは知らない方がいいって、いつも言っていったよ。」
AMU 「そうよね。ネガティヴに触れたら、終わってしまうかも。
KOTA.。それは、お父さんの形見だよね。」
KOTA 「オヤジは、これがこの星だって言っていたよ。これが、宇宙の軌道を描いているんだって。」
AMU 「外から、この星を見てみたいってKOTAは思わないの?」
KOTA 「どんな大海を、僕らの星は泳いでいるんだろう?それは知りたいけど。実は、ロボットたちに観察衛星を飛ばしてくれないかってお願いしたら、彼らの仲間を何体か解体すればできるって言われたんだ。でも、それって・・・」
AMU 「そうよね。それって、かわいそうだし。限られた資源を無駄に使いたくないし。」
この星の住人、KOTA、AMUは心優しく育っていた。