辺野古新基地、沖縄県が国の岩礁破砕の差止訴訟を提起 | なか2656のブログ

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(辺野古沖。名護市役所サイトより。)

1.沖縄県が差止訴訟を提起
新聞記事によると、7月24日午後、沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、無許可で岩礁を破砕するのは県漁業調整規則に違反しているとして、沖縄県は国を相手に岩礁破砕を伴う工事の差し止めを求めるための訴訟を那覇地裁に起こし、また、県側は判決が出るまで、工事を一時的に禁止する仮処分も地裁に申し立てたとのことです。

・辺野古新基地、5度目の法廷対決へ 沖縄県が国を提訴 岩礁破砕差し止め求める|沖縄タイムス

2016年6月17日に沖縄県から出された申出に対して、国地方係争処理委員会が国の行為の適否について判断を下さず、国と沖縄県は改めて協議するよう求める決定を下しました。ところが国は県と協議をしないまま、同年7月22日に、県を名宛人として不作為の違法確認訴訟を提起しました。そして福岡高裁(2015年9月16日)および最高裁(2015年12月20日)は、政府・与党の意向を忖度し追従するような県敗訴の判決を出しました。

2.岩磯破砕等の許可の問題
そのようななか、新たな問題として沖縄県漁業調整規則に基づく岩磯破砕等の許可の問題が顕在化しました。岩礁その他海底の地形の変更をもたらす工事については各県の漁業調整規則により知事の岩礁破砕等の許可が必要です。従来は沖縄防衛局がこの許可を取っていたのですが、その許可の期限の切れた2017年4月以降も、沖縄防衛局は新基地の工事を続けています。

この海域は漁業権が設定されている海域であり、沖縄防衛局は名護漁業協同組合に要請を行い、この海域の漁業権の放棄を決議させました。そして国は、漁業権が消えたから知事の岩礁破砕等の許可は不要だと主張しています。そして沖縄防衛局は水産庁に照会し、自分の主張に沿う回答を引き出しています。

しかし、確かに漁業権の放棄の決議はなされたが、漁業権者がもっている水域全体について放棄されているわけではなく、その一部のみが放棄されているのですから、これは漁業権の変更にとどまり、知事の変更免許が必要となります。従来は水産庁もこの見解を取っていたとされます。したがって漁業権は消滅しておらず、やはり知事の岩礁破砕等の許可が必要ということになります(岡田正則・白藤博行・人見剛・本多滝夫「辺野古訴訟と行政法上の論点」『法学セミナー』2017年8月号43頁)。

今回沖縄県が提起した工事の差止め訴訟において、この漁業権の解釈が大きな争点の一つとなると思われます。

3.行政は義務履行を求めて民事訴訟を提起できるか?
また、今回の差止め訴訟においては、もう一つクリアしなければならない論点があります。つまり、行政が義務履行を求めて差止訴訟という民事訴訟制度を利用できるのかという論点です。

しかしこの論点に関しては、平成14年に最高裁判決が出され、提起できないという結論が出されてしまっています(最高裁平成14年7月9日判決・宝塚市パチンコ店事件)。

この事件は、パチンコ店の出店などを規制する条例がある宝塚市において、条例に従わずパチンコ店の工事等をはじめた事業者に対して、宝塚市が工事の差止を求めて訴訟を提起したものです。

この判決は、「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、(略)法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではない」として、行政上の義務の司法的執行を認めるためには、原則として民事訴訟による訴訟の利用を否定しました。

そのため、もし今回の差止め訴訟において裁判所がこの平成14年の判例を踏襲した場合、訴訟が門前払いとなってしまうおそれがあります。

しかしわが国の行政上の義務履行確保の方法としては、金銭支払義務に関する強制徴収と、代替的作為義務に関する代執行の手段しか強制執行的な手段が用意されていません。そしてあとは、事後的なペナルティーである行政罰で間接的に強制をかけるという手段しかなく、わが国の義務履行確保手段は不十分であるにもかかわらず、行政が民事裁判を利用する道をふさぐことは妥当ではないと行政法学者から批判の大きいところです(岡田・白藤・人見・本多・前掲43頁)。

あるいは、この判決は、このような紛争が「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)、これと同義に解されている憲法上の概念としての「司法権」(憲法76条1項)からカテゴリーとして排除されているように読めますが、しかし法律上の争訟をこのように解するなら、これを規定する憲法76条等の司法権は極端に限定されてしまうものである、とも批判されています(櫻井敬子・橋本博之『行政法 第4版』176頁)。

4.まとめ
いずれにしても、今回の訴訟においては、裁判所はさきの2016年の福岡高裁、最高裁のような政府・与党に迎合するようなことをせずに、「憲法の番人」としてその良心に従ひ独立して(憲法76条3項)、法の支配に根差した判決を出していただきたいと思います。

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